yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

文楽『近頃河原の達引』@国立文楽劇場 4月8日夜の部

夜の部は『祇園祭礼信仰記』と『近頃河原の達引』の二本立て。『祇園祭礼信仰記』は二時間近い長丁場な上、歌舞伎では見せ場になる「爪先鼠の段」が文楽では「見せ場」にならない(?)所為か、そのまま帰ってしまう人も結構いたような。残念。順序を逆にした方が良かったのでは。面白さ、とっつき易さで行けば、断然『近頃河原の達引』ですから。私も何度か見ているけれど、見るたびに新鮮なのがこの『近頃河原の達引』。五年前に見たときもやっぱり感激した。

五年前の演者さんたち

五年前の『近頃河原の達引』、「四条河原の段」と「堀川猿廻しの段」の上演。2014年1月に文楽劇場で見て記事にしている。

www.yoshiepen.net

「四条河原の段」は、文字久太夫・宗助コンビだった。「堀川猿廻しの段」の「切」は住大夫・錦糸、「後」は英太夫(現呂太夫)・清介コンビだった。人形は伝兵衛を和生、おしゅんを文雀、与次郎を玉女(現玉男)という配役。文雀さん、この時86歳。この二年後に鬼籍に入られた。キリッとしている中にほんのりと色気があり、どういう役をやられても品があった。

今回の演者さんたち

今回の「堀川猿廻しの段」の「後」は、5年前と同じコンビ。残りは入れ替わっている。演者は以下。

四条河原の段

 太夫   靖太夫   
 三味線  錦糸

 

堀川猿廻しの段

切    

 太夫   津駒太夫   
 三味線  宗助

 ツレ   清公

 太夫   呂太夫

 三味線  清介

 ツレ   友之助

 

人形役割

伝兵衛   勘彌
おしゅん  蓑二郎

与次郎   玉也
官左衛門  幸助
与次郎母  勘壽

 

「コトバンク」からの作品解説

「コトバンク」から作品解説を引用させていただく。

浄瑠璃。世話物。3巻。為川宗輔奈河七五三助 (ながわしめすけ) らの合作。天明2 (1782) 年春,江戸外記座初演といわれる。元禄 16 (1703) 年に起きた,おしゅん庄兵衛 (劇中ではおしゅん伝兵衛) の心中事件に,元文3 (38) 年に四条河原で起きた公家侍と所司代家来のけんかと,親孝行な猿廻しが表彰を受けた話題をからませ脚色。猿廻し与次郎の家の悲劇を描く「堀河猿廻し」の段は,世話浄瑠璃の代表曲の一つとされ,今日でもしばしば上演される。 

見ている間、誰が書いたのかずっと気になっていたので、これですっきり。当時の心中事件を文楽にしたのですね。心中事件を即舞台化するというのは常套だったことがわかる。

津駒太夫の力演

津駒さんの嫋嫋とうたいあげる語りは、他の若手たちとはスタイルが異なっている。「古い型」、あるいは古典的型?伝説になっている津太夫、越路太夫系なんだろうか。当方文楽観劇歴26年になるものの、このお二方は聞いていないので、あくまでも勝手な憶測である。

最近、津駒さんの語りに「やられっぱなし」である。私の大好きな呂勢さんや文字久さんとはかなり違うものの、こういう「攻め方」もあるのかと、聴くたびに感じ入ってしまう。あのくせのある語り方が耳についてしまう。嫋嫋と語るといえば、引退された嶋太夫さんがもっとも相応しいけれど、でも津駒さんのような「嫋嫋」もあるんですよね。直球で勁い球を投げてくる感じっていえば、わかっていただけるでしょうか。情にストレートにくるんです。宗助さんも好きな三味線弾き。ツレの若手の清公さんも若いながら巧い。というわけで、この「切」は聴きごたえがあった。

「猿廻しの段」の見せ場

そして、この演目のハイライトは、なんといっても猿廻しの場面だろう。語りは呂太夫でさすがのレベル。そして、三味線はツレが入って、迫力がある。高木秀樹氏の書かれた「文楽ポータルサイト」の記事(2014/1/10)の解説によると、ここが最大の「見せ場」であることがよくわかる。引用させていただく。

labunraku.jp

 

 猿回しの演奏は、ツレ弾きが入って三味線が二人になる。ここは十分間ほどを、ほぼ三味線のみで聞かせる。太夫の語りが無い分、三味線の音を存分に楽しむことができ、そこでは義太夫節・太棹三味線の様々なテクニックが駆使される。

確かに、猿廻しのパフォーマンスには語りがつかない。清介・友之助さんの三味線演奏のみ。清介さんの演奏が堂に入っている。観客は三味線の高度、華麗なテクニックに圧倒されつつも、演じられているのが『曽根崎心中』の場面であることで、伝兵衛とおしゅんの結末を予見してしまう。滑稽の中に悲劇を予見させるという、凝った趣向である。猿の演技のおかしさに笑いながらも、恐ろしい結末を感じとり気が滅入ってしまう。伝兵衛、おしゅんの顔に笑いはない。うつむき加減の萎れた二人の姿に、彼らの行く末が暗示されている。高度に劇的な場面である。この入れ子構造の妙に唸る。こういうのに出くわすと、伝統芸能の幅の広さと奥行きの深さに圧倒されてしまう。

猿廻し与次郎を遣ったのは玉也さん。そういえば、最初に、つまり「四条河原の段」で登場された時、客席から拍手があった。きっと彼の与次郎は評判なんですね。その評判通り、猿廻しの段は一境地抜けてる感じだった。