yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『蘆屋道満大内鑑』in 「令和三年錦秋文楽公演」@国立文楽劇場 11月4日第一部

公演チラシ表・裏の「配役表」と「あらすじ」をアップしておく。

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国立劇場サイトには今まで見たことのない第一部、第二部、第三部それぞれの「予告編動画」なるものがアップされている。リンクしておくが、公演終了後は見られなくなる可能性がある。

www.ntj.jac.go.jp

この予告編の場面の一部をスクショした。

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この「予告編」はずっと以前のもの。保名を遣うのは今回の公演では女房葛の葉を遣った吉田和生さん。予告編の葛の葉姫を使っているのは吉田文雀さん。ほんの1分足らずの保名と葛の葉姫の出会いの場、お二人とも素晴らしい。文雀さんは2016年に鬼籍に入っておられるので、貴重な映像。大好きな人形遣いさんだった。「理論派」で知られた方だった。理知的な遣い方をされた。それでいてどこか体温が感じられる遣い方をされた。

以下、各段について。

<保名物狂の段>

3分ばかり遅刻して着席したら、太夫床にどなたもおられなくてびっくり。上の御簾からの演奏だった。太夫は碩太夫さん、三味線は燕二郎さんだった。

「奥」からは床に太夫と三味線が並んでの平常運転。思わず「おお!」って歓喜の声?をあげてしまった。太夫が織太夫さん、小住太夫さん、三味線が藤蔵さんと清公さんだったから。初っ端からこんなに豪華な演者を揃えてしまって、大丈夫なのかと、お節介な心配をしてしまった。朗々と元気の良い織さんと、しっとり型の小住さんの組み合わせ、その動と静の組み合わせはそのまま三味線の藤蔵・清公お二方の対比にもなっていた。この対比はニクイ!

<葛の葉子別れの段>

この段も「中」と「奥」の対比が興味深かった。「中」でメキメキと存在感を示されている若手ホープの咲寿太夫さんの語りと、「奥」で文楽の粋とでもいうべき重厚な語りの錣太夫さんの際立った対比である。聞き応えがあった。個人的にいえば錣さんの相方、宗助さんの三味線にはいつも癒される。とてもいいコンビだと感心する。

<蘭菊の乱れ>

この段は初めて聞くものだった。哀切な場面なのに、艶やかな太夫たちの語りの声とこれまた歯切れの良い三味線陣の掛け合いが色を添えている。子供への愛着を断ち切れないままに信田の森の古巣へとかけ帰らざるを得ない狐葛の葉の心情。子別れの悲劇をお涙頂戴の悲劇にするのではなく、己を犠牲にしてに尽くす母親をglorifyし、崇高化しているんですよね。

そして何よりもうれしかったのは主太夫が呂勢さんだったこと。玉を転がすような美声はそのままに、切々と狐葛の葉の哀しみ、苦しみを歌いあげるところは秀逸そのもの。またこの場では、前段までに登壇した太夫、三味線弾きのほとんどを打ち揃え全員で、狐葛の葉の「自己犠牲」をglorifyしている。思わず涙が出た。素晴らしい演奏だった。

人形遣いは狐葛の葉を吉田和生さん、保名を蓑二郎さんというこれ以上ない組み合わせ。和生さんの簑助さんを思わせる「見返り技」にはなんども息をのんだ。さすが文雀さんの一のお弟子さん。以前からすごい方だとは思っていたけれど、改めて人間国宝の力量を思い知らされた。