yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『近頃河原の達引』@国立文楽劇場1月26日(日)夜の部 千秋楽

以下チラシから。

「四条河原の段」
大夫   文字久大夫   
三味線  宗助


「堀川猿廻しの段」
切    住大夫     
三味線  錦糸
後    英大夫     
三味線  清介


<配役>
伝兵衛  和生
おしゅん 文雀
与次郎  玉女
官左衛門 幸助
勘蔵   亀次

<あらすじ>
井筒屋伝兵衛と祇園の遊女おしゅんは深い仲。伝兵衛は横恋慕する侍横淵官左衛門に大金を騙し取られ、四条河原で官左衛門を手にかけてしまう。伝兵衛はお尋ね者となり、おしゅんは堀川の実家へ戻された。母は近所の娘たちに地唄を教え、兄の与次郎は猿廻しの芸で日銭を稼ぐ貧しい暮らしである。母と兄はおしゅんに伝兵衛との縁切りの手紙を書かせる。ところが手紙の内容は伝兵衛との愛を貫くものだった。母と兄はおしゅんの堅い決意を認め、兄は商売の猿廻しを披露し、二人を送り出す。

二週間も前に観た文楽。とても面白い演目で即記事にしようと思ったのに、毎日くだらない「補講」で疲れ果てているので、なかなか時間が取れなかった。20年も文楽を観てきているのに、この演目は初めて。源大夫さんがご病気で一部の公演を休まれたよう。「新口村」だったようで、津駒大夫さんが代役。津駒大夫さん、もう若手ということではなくなっている。以前頻繁に観ていた頃には一人で語りを張ることはあまりなかったような。呂勢大夫さんなど後輩が一人語りを早くからやっていたのに、もったいないと思っていた。今回はきっと良い語りを聴かせられたに違いない。聴けなくて残念。

呂勢大夫さんの盟輩の文字久大夫さんも以前は(私が知る限り)主要な語りを演ることがあまりなかったが、今回は大役。重厚さが求められる段だけど、非常に折り目正しく語られた。ちょっと高めの声質が少し低くなり、それが登場人物、特にワルの勘蔵、官左衛門のことばを語るのにはうってつけだった。憎たらしい感じが醸し出されていた。彼は住大夫さんのお弟子さんで、住大夫さんが語る時にはいつも傍についたおられた。だから「正統派」の語りなんだけど、でも味という点では住大夫さんと比べると物足らなかった。ところが、今回はとても生き生きと躍動感ある語りで、それは住大夫さんのものとも違った味のあるものになっていた。感動。

「猿廻しの段」の住大夫さんは、以前より声が小さくなっていた。去年の復活直後の方がもっと声量があったような。この日は千秋楽。だからお疲れもあったのかもしれない。三味線の錦糸さんが、脇でしっかりとサポートされていたのが印象的だった。三味線は女房役なんだということがよく分かる。

三味線の宗助さん、清介さんももう「若手」ではなく中堅になっている。後輩の指導にあたっているのだろう。弾き方もその域に達している。風貌もそれに見合っている。若い頃の彼らのイメージが強烈なので、(自分も歳をとったのを棚に上げて)ちょっと残念。

英大夫さんがお上手なのはもともとだったのだけど、今回は与次郎の「曾根崎心中」の猿版の猿廻しの様子を滑稽にかつリアルに語ってみせて、秀逸だった。ホントにオカシカッタ。特にお初と徳兵衛の猿二匹をなだめつ、すかしつ、叱りつけつつなんとか役を演じさせるサマに笑い転げてしまった。お客さんも大喜び。このお猿さんの「曾根崎心中」は伝兵衛とおしゅんの道行きと対になっている。だからその滑稽さの裏には恋人同士の叶わぬ恋、心中という悲劇があるわけで、その悲劇性は歌舞伎よりも人形浄瑠璃でしか描ききれない重みがあった。

この日の観客の年齢層が、いつもよりもかなり低め。だから反応も速かった。大夫もさぞかしやりがいがあったに違いない。東京の公演と近かったかもしれない。いままでの大阪公演は観客の年齢層が高く、座席を見渡すと白髪、それに黒っぽい服装がずらっと並んでいて、それをみると「文楽に果たして未来があるのか」と不安になったから。

大夫さん、三味線弾き等の演者たちもぐっと若返っている。喜ばしい。若い観客を惹き付ける工夫を色々と試みて欲しい。試みといえば、「杉本文楽」がいよいよ大阪で観られる。ただし、舞台の設定の関係上文楽劇場ではなく「新装開店」のフェスティバルホールにかかる。1月31日の売り出し開始時に即取った。同僚の哲学の先生が公演を教えて下さったのだ。私も一応フェスティバルホールの会員なので、チラシが郵送されてきていたのにゴミ箱にポイだったので、見落としていた。ありがたい。公演は3月28日から30日までの3日間のみ。フェスティバルという大きな劇場なので、それが「吉」と出ればいいのだけど。杉本文楽については2年前にこのブログの記事にもしている。楽しみ。