yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

創作能「船弁慶」@兵庫県立芸術文化センター中ホール10月10日

発売からだいぶん時間が経ってからチケットを購入。前から二列目の良席。これだと「当日の入りは良くないんでは?」と心配したけど、杞憂。満席だった。トークと実演との二部構成。芸文センター所在地の西宮、阪神間が「舞台」になっているということで、この演目になったようである。その経緯の解説が以下。

阪神間を舞台にした能の名作のなかでも、とりわけ名高い『船弁慶』を、ホール能ならではの演出を駆使した創作能として上演。

“六甲おろし(武庫山おろし)”が登場し、地元在住の能楽師による、ドラマティックな舞台が見どころ。

トークでは、亡霊が主人公となることの多い、能の魅力について「妖怪博士」小松和彦らが語り合います。

『船弁慶』の舞台は大物浦の沖合。そういえばこの6月に歌舞伎座で『義経千本桜』中の「碇知盛」を観て、染五郎の知盛に感動したところだったことを思い出した。知盛終焉の場所が大物浦。あの悲しくも有名な句、「みるべきほどのことをばみつ」の言葉を残して入水したのである。能「船弁慶」でも知盛が亡霊として登場。船上の義経、弁慶を襲うという設定。能のおきまりの亡霊との対決がある。亡霊を調伏するのはここでは弁慶。以下センターのサイトに掲載されていた演目紹介と内容。それに演者。

[第1部] トーク「妖怪と地霊」
小松和彦(国際日本文化研究センター所長)
梅若基徳(能楽師・観世流シテ方)
聞き手: 河内厚郎(兵庫県立芸術文化センター特別参与)

[第2部] 創作能「船弁慶」
静御前/平知盛の怨霊: 梅若基徳
源義経: 梅若雄一郎
武蔵坊弁慶: 福王知登
判官の従者: 喜多雅人  是川正彦
船頭: 善竹隆司
笛: 斉藤 敦
小鼓: 久田舜一郎
大鼓: 守家由訓
太鼓: 中田弘美
後見: 梅若猶義  井戸良祐
地謡: 吉井基晴  上田大介  大西礼久  寺澤幸祐

また、以下は「the能com」から引用させていただいた、「船弁慶」のあらすじとみどころ。

<あらすじ>
平家追討に功績をあげた源義経でしたが、頼朝に疑惑を持たれ、鎌倉方から追われる身となります。義経は、弁慶や忠実な従者とともに西国へ逃れようと、摂津の国大物の浦へ到着します。義経の愛妾、静(しずか)も一行に伴って同道していましたが、女の身で困難な道のりをこれ以上進むことは難しく、弁慶の進言もあって、都に戻ることになりました。別れの宴の席で、静は舞を舞い、義経の未来を祈り、再会を願いながら、涙にくれて義経を見送ります。

静との別れを惜しみ、出発をためらう義経に、弁慶は強引に船出を命じます。すると、船が海上に出るや否や、突然暴風に見舞われ、波の上に、壇ノ浦で滅亡した平家一門の亡霊が姿を現しました。なかでも総大将であった平知盛(とももり)の怨霊は、是が非でも義経を海底に沈めようと、薙刀を振りかざして襲いかかります。弁慶は、数珠をもみ、必死に五大尊明王に祈祷します。その祈りの力によって、明け方に怨霊は調伏されて彼方の沖に消え、白波ばかりが残りました。

<みどころ>
誰もが知る義経や弁慶、静御前が登場するわかりやすい能で、弁慶を中心に物語はテンポよく進みます。

この曲の前後のシテは、美しい白拍子と恐ろしい怨霊という、まったく異なった役柄となっています。優美さと勇壮さの対照で織りなされ、前場には優美な舞が、後場では薙刀を振るう荒々しい舞働が用意されており、謡い・囃子の強弱、緩急も全く異なったものとなります。変化に富む大変劇的な曲です。
また、舞台が大物の浦の船宿から大海原へ展開していく様子は、作り物の舟だけで見せていきます。ここは、アイの船頭の腕の見せ所で、船をこぎながらのワキとのやりとりや嵐が始まってからの棹さばきなど、本当に荒れ狂う海が見えるかのような所作が見られます。

「創作能」と銘打ったのは、背景と照明を普通の能舞台のものとは大幅に変えていたからだと思う。バックをスクリーンにして、大物浦の情景を映像として映し出していた。照明もバレエ舞台のような洋式のもの。普段の能舞台のものよりも華やか。また地謡の人たちの座る位置も舞台下手。とにかく舞台が広いので目立たないのを、極力見える化していた。舞台設定の方式はこの8月に京都府立府民ホール アルティで見た楽劇「保元物語」とよく似ていた。また字幕が付いているところも似ていた。「船弁慶」の方の「音楽」は能本来のものに限られていたのに対し、「保元物語」では西洋音楽が使われていたところが、一番大きな違い。

「船弁慶」でシテの静御前と知盛を舞ったのは梅若基徳さん。長身なので迫力があった。特に後場での知盛の亡霊の演技。能舞台の何倍もある広い舞台を縦横に滑走されて、圧巻。

弁慶を演じられた役者さんを含めて皆さんお若い。すっきり感が強かった。地謡も若手がほとんどで、メリハリが効いていた。怨霊のもつ重さがその分、減じていたかもしれない。それもこのホール、さらにはこの地域のもつ「明るさ」を反映していた?

地域といえば、第一部のこの地域と「霊」とを関連させた鼎談、「妖怪と地霊」が興味深かった。一見明るく見える、怨霊などとは縁のなさそうなこの阪神間に、妖怪に所縁のある(?)場所がいくつかあるとのこと。日文研の小松和彦さんのお話が参考になった。「鎮魂」がその主旨である能。その演者である梅若基徳さんのお話と合わせて、しみじみと聴き入った。