主役を張った右近のバックに、猿之助の存在を終始強く感じたのは私だけではないだろう。この作品の再演に至るまでの経緯を石川耕士氏が筋書に詳しく書かれているのがとても参考になる。私は2015年7月に歌舞伎座で見ている。これは石川耕士氏が2006年以来猿之助と組んで舞台にあげてきていた、まさに今回の上演の基本になったもの。
猿之助は五役早替わりで演じている。対して右近は以下の七役である。
女童 扇弥
薬売り 研作
番頭新造 四つ輪
太鼓持 栄寿
座頭 音市
傾城 薄雲実は女郎蜘蛛の精
平井左衛門保昌
私が2015年に見たときは保昌を海老蔵が務めていた。この人だけが何か浮いていたのが甦ってきた。猿之助もやりにくかったのではないだろうか。
今回右近が役を「取り戻して」、保昌を早替わりで演じたのは右近のたっての希望だったそう。「押し戻し」というらしい。舞台上の女郎蜘蛛の精が途中で右近から別の役者にすり替わり、一転、花道から右近が保昌として登場するという趣向である。非常に面白かった。客席も沸いていた。
ここで主要な役と演者を書き出してみる。
坂田金時 巳之助
碓井貞光 隼人
渡辺綱 吉之丞
八重菊 笑三郎
桐の谷 笑也
源雷光 門之助
まるで絵巻物を見るように次々と舞踊が変わってゆく。登場する役者も次々と目まぐるしく変わって行く。その場面転換のキューを出すのが早替わりした右近というわけ。右近が軸となって、回り舞台を魅せる趣向なのだろう。個人的には女童が右近のニンに近い(?)気がした。ウルトラ級に可愛かった。
右近と組んで精彩を放っていたのが坂田金時の巳之助。滑稽な役まわりを目一杯見せてくれた。2015年に見た時(この時は渡辺綱役)より、よほど嬉々として演じているように見えた。といっても、そこは日舞家元なので、踊りが崩れない。
隼人は以前の猿之助版では出ていなかったのだけれど、『ワンピース』等のスーパー歌舞伎の「チーム猿之助」で鍛えられただけあって、躍動感のある舞台を思う存分楽しんでいるように見えた。舞踊劇なので、踊りの所作が美しくないとダメだけれど、その点右近、巳之助、隼人はレベルが高く、安心して見ていられた。
笑三郎、笑也、そして(雷光を前と同じく演じた)門之助といった澤瀉屋の常連が舞台に重厚感を加えていた。ときどき、「あーっ、猿之助だ!」とその存在を感じることで、幸福感を感じてしまった。「スーパー歌舞伎」の趣向が満ち満ちていた。役者がほぼ全員若手だったことが松竹の新方針を示しているのではないかと思った。最後にこの「初春大歌舞伎」のチラシを貼っておく。
