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詞章は「郡山の宝生能楽会」のサイトからお借りする。
シテ 「天下第一の。
地 「天下第一の。二つの銘の御剣にて。四海を治め給へば。
五穀成就も此時なれや。即ち汝が氏の神。稲荷の神体小狐丸を。
勅使に捧げ申し。これまでなりと言ひ捨てゝ。又群雲に飛び乗り。
又群雲に。飛びのりて東山稲荷の峯にぞ帰りける。
詞章に非常に詳しい解説がついているので、いつもお世話になっている。ありがとうございます。『小鍛冶』の解説は以下のようになっている。
「小鍛冶」は祝言性の高い切能の傑作である。
わかりやすい筋書きに沿って、動きのある舞が華やかな舞台効果を作り上げる。囃子方と謡も軽快でリズミカルだ。全曲を通じて観客を飽きさせることがなく、現在でも人気曲の一つとなっている。始めて能を見る人でも十分に楽しめ、それだけに上演頻度も高い。作者、典拠は不明であるが、古い能であるらしい。浄瑠璃や歌舞伎にも取り上げられている。稲荷大明神の神徳によって名刀を作るという筋からして、あるいは、刀鍛冶集団と稲荷霊験譚が結びついた古い伝説があったのかもしれない。
筋書きは、一条の院より剣の鋳造を命ぜられた小鍛冶三条宗近が、進退窮って稲荷明神に救いを求め、その神力によって無事名刀小狐丸を打ち上げるという単純なもの。前段では、童子に姿を変えた稲荷明神が、漢家本朝の剣にまつわる伝説を語り、後段では明神自ら手を貸して剣を打つ場面が演じられる。ともに見所、聞き所に富んだ場面である。シテの稲荷明神自ら、稲荷の神体小狐丸を勅使に捧げて、一曲は終わる。この結末から見ても、この曲は刀鍛冶の職能集団と深いかかわりのあったことを伺わせる。
九郎右衛門師の稲荷明神、跳んだり跳ねたりと、とにかく動きが激しい。跳び上がって、そのままドスンんと床に落ちるところは、大きな音を伴っている。シテの稲荷明神が若い神さまであることを窺わせる。その若々しさを目一杯に表現されていて、すっと胸がすく思いがした。
一番のみどころは、くるりくるりと回りながら跳び上がるところで、スピードとその質量感が鮮やかである。「東山稲荷の峯にぞ帰りける」の締めの部分では、両手を広げて遠い峰を目指して飛んで行く様が描かれている。それまでの激しい所作がこの最後で納められることで、解放感にみたされる。
九郎右衛門師のご自宅の稽古場での収録のようで、大きな窓の向こうには庭が見えるのも、観世会館での舞台とは違った趣きというか、開放感がある。壁にはお祖母様の井上八千代さんの額が掛かっている。きっとこの稽古場は京舞の稽古場なんでしょうね。
2017年の姫路城薪能で『小鍛冶』をフルで見て以来、仕舞も含めてなんども見てきた。稲荷明神の若々しさと豪快さが一挙に味わえて、能の「祖型」に近い形を残している気がする。とても好きな曲。それが九郎右衛門師の仕舞で見ることができて、うれしい。