大正天皇の即位式のために創られた『大典』を、故片山幽雪師が今の時代にあった『平安』に改作されたのだという。非常に美しい詞章で、しかもテーマが今の時代を生きる私たちとその平安を祈念、また寿ぐ内容になっている。
先に引用させていただいた日経デジタル記事の『平安』解説が以下である。
■天女4人に増員
勅使が平安神宮に参詣すると、天女が現れて舞を舞い、続いて天つ神が現れて新しい時代を祝福する神舞を舞う。新天皇の即位を祝う「大典」は即位の礼の年のみに上演が限られるのに対し、「平安」は日本の繁栄や世界平和を願う内容で、上演機会も柔軟だ。シテを勤める井上理事長は「新しい曲は時代に合った演じ方が許される」といい、詞章のなかに「令和」の文言を盛り込み、通常は1~2人の天女を4人に増やして華やかさを増すと話す。
演者は以下の方々。
シテ 天つ神 井上裕久
ツレ 天女 浅井通昭
天女 吉田篤史
天女 松井美樹
天女 鷲尾世志子
ワキ 勅使 原 大
ツレ 従者 岡 充
ツレ 従者 原 陸
笛 杉信太朗
小鼓 林 大和
大鼓 谷口正壽
太鼓 前川光範
後見 片山九郎右衛門 牧野和夫 吉浪壽晃
地謡 浦田保浩 深野貴彦 河村博重
橋本忠樹 浦田保親 大江泰正
まだ日があったので、背景になっている神殿の美しさが冴えていた。詞章もそれを歌い上げたもの。ことば及び色の対比がビジュアルで冴え渡っている。
見渡せば白砂の広庭清しくて
太極殿の朱の太柱
東に蒼龍
西に白狐の両楼あり
甍の碧に金色の鵄尾輝き
さながら平安の昔偲ばれて
感涙肝に銘ずるばかりなり
平安神宮の美しい神殿がそのまま詞章になっていて、それを目で追いながら鑑賞できるという贅沢。その場に味わえなかったのが悔やまれる。
まず、男性二人、女性二人の演者が演じる四人の天女(巫女)が登場するのだけれど、なんとも初々しい感じがする。のどかな平安朝の宴がその場に展開しているような錯覚を覚える。
そして、いよいよ真打の天つ神の登場。非常に優雅。天女を緩やかに束ねる感じがいかにも平安の世。あくまでものどかでおおらか。それをサポートするお囃子もその雰囲気を盛り立てる。演者が若(々し)いのが、新しい御代を寿ぐのにぴったりである。清新さが際立つ。
こののどかさのうちに終わるのだけれど、そのあとも余韻が辺りにほんのり漂う。今までに見てきた能の番組とは明らかに違っていた。神に捧げるという演者さんたちの意識とそれを見守る神官、観客の想いが一つになった感じが強くした。