yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

主演のヴィクトール・ポルスターの繊細が光る映画『Girl ガール』@シネリーブル神戸 7月20日

「トランスジェンダーの男性バレーリーナ」を主人公とする話と知った段階で、見たいと願っていた作品。公式サイトをリンクしておく。

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また、Wikiの解説(なんとすでに出ていた!)にあった「キャスト」、「ストーリー」をお借りする。

 

プロのバレリーナになることを目指す15歳のトランスジェンダーの少女ララは、フランス語が母語の理解ある父親マティアス、そして弟とともに、ダンス学校へ通うためフラマン語圏の町に越してくる。性別適合手術を予定しておりホルモン補充療法を受けているララは、治療が遅々として効果を上げないことに不満を覚えている。学校では、バレエの練習中はペニスをテープで覆い隠し、またクラスメートの差別的な言動に晒される。テーピングのため陰部は炎症を起こし、ララは医師から手術の延期を宣告される。耐え切れなくなった彼女ははさみでペニスを切り落とす。数年後、陽の当たる道を歩くララを映して映画は幕を閉じる。 

ほぼ全編がバレエの稽古シーン。ポルスター自身がバレエダンサーだから可能になった場面の数々だろう。編入してきたものの、まだまだ技術的にはトップバレエ学校のレベルに追いついていないため、過酷としか言いようのない稽古を自らに課さざるを得ない。それも、本来のセクシュアリティとは違った女性として、女性ダンサーに混じっての稽古。最初のうちは一定の距離を置いていて見ていた仲間たちも、ララが上達し、自分たちを脅かすようになるにつれて、どこかよそよそしくなる。バレエ仲間と談笑しているようでいて、実は完全に浮いてしまっている。

ララ自身も常に他の少女たちとは決定的に違う自らの肉体を意識せざるを得ないため、打ち解けることができないでいる。彼女たち仲間のうちに入ることはできないし、悩みを打ち明ける人が誰もいない。もっとも、打ち明けてもわかってもらえるはずもないだろう。精神的に次第に追い詰められてゆく主人公ララの苦しみが痛いほど伝わってくる。彼がトイレで肉体に貼り付けたテープを剥ぎ取る場面が、なんとも痛々しい。

唯一彼が安らぐことができるのが、父マティアスや幼い弟といる時間。父はララのバレエ学校のため、以前のキャリアを捨てて、タクシー運転手になっている。弟も転校せざるを得なくなっている。それでも愚痴を一切言わない。朝、弟を幼稚園に送ってゆくのはララの役目。家族関係のほんわかした温かさが、画面から匂い立つような感じがする。住んでいるアパートは狭く、決していい居住空間とは言えないけれど、この温かさに救われる。スキンシップにあふれた関係。優しい思いやりのある言葉が買わされる空間。また、この家にやってくる客たちもみんな優しい。ララの「治療」に当たっている医師たちも、みんな優しい。

でも、この温かい空間を脅かしてくる何かがある。というのもララが自分の苦悩を父にも打ち明けることができないでいるから。その孤独の重さ。それがあるので、周りの人が優しく、温和であればあるだけ、得体の知れない不安が漂ってくる。打ち消しても、打ち消しても。見ている側も不安を常に感じさせられる。こういうなんというか、「ムード」というかちょっと表現できない雰囲気を映像で描くのは非常に難しいと思う。でもこの映画は成功している。

優しい人たちがたやすく傷つき、その傷ついたことに罪悪感を持つ。また、愛する父をも傷つけてしまったことに、罪悪感を持つ。ララがまさにそう。でもこれは所詮堂々巡り。解決の道はない。好きな人と「普通の人」のように愛しあえないという絶望がそれを加速させる。

クライマックスシーンは制止できなかった。チキンの私は目を瞑り耳を塞いでいた。目を開けると病院のシーン。父がララの手を握っている。お互いに微笑み合う二人。そして、唐突なほど、あっけらかんと最終シーンに移る。この唐突と、あっけらかんが救いといえば救いかもしれない。

2018年、カンヌの「ある視点部門」で上映された。Wikiサイトに受賞歴の一覧がある。非常にcontroversialな作品だったためだろう、批判も受けている。

「本作に対してはトランスジェンダーやクィアの書き手から主に性別違和や自傷の描写に関して批判が寄せられた」とWikiにあるように、例の自傷場面への批判が強かったようである。

Wikiにも解説しているのだけれど、主演を演じれる役者を選考するのにかなり時間がかかったらしい。以下、Wikiより。

主役のキャスティングは演者のジェンダー不問で行われた。14〜17歳の約500人(うち6人がトランス女性)がオーディションを受けたが、演技とダンスの技術を十分に兼ね備えた俳優が見つからなかったため、製作陣は映画に登場する他のダンサーを先に配役することに決めた。このグループキャスティングの過程で見出され主演に抜擢されたのがポルスターである。

ポルスターは実際には男性バレエダンサー。バレエ技術に破綻がなかったはずですね。また容姿が美しく、女性に見える。化粧しないで街を歩いていても、おそらくほとんどの通行人は女性だと思うだろう。映画の選考時点では14歳だった。映画では2歳ばかり時間が経っている。ヴィスコンティの『ベニスに死す』の美少年を思い出してしまった。イノセンスさはそのままに、あの少年から傲慢を取り除き、もっとナイーブで温かみのある感じにしたら、ララになるかも。