GAGAによる1分47秒のCMサイトは以下。
新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックにおけるパリ・オペラ座のバレエダンサーたちの葛藤の日々と、新エトワール誕生までの軌跡を追ったドキュメンタリー。GAGA動画に付いた解説は以下である。
それでも踊り続ける――
世界的パンデミック禍、バレエの殿堂に訪れた葛藤と静寂
新エトワール誕生までの軌跡を追った情熱のドキュメンタリー世界的パンデミック禍、パリ・オペラ座も静寂が支配していた。「1日休めば自分が気づき、2日休めば教師が気づく。3日休めば観客が気づく―」と言われるダンサーたちにとって、1日6~10時間踊っていた日常から突如切り離された日々は、過酷な試練であった。2020年6月15日、3か月の自宅待機を経てクラスレッスンが再開。
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』は、監督であるプリシラ・ピザートが、パリ・オペラ座に特別に許可を受け、パンデミック禍の閉鎖からの復活の日々を撮影した貴重な映像が数々収められている。マスクを着けたダンサーたちのレッスン、最高峰のエトワールたちの長い休みからの再開のレッスン、そして、新たな公演(シーズン)に向けレッスンを重ねていく日々。バレエダンサーたちの不安、葛藤、期待といった心境に寄り添いながら、ダンサーと振付師が協力し合い、ひとつの舞台を作り上げていく姿を追っていく。バレエのみならず、全てのエンタテインメントの舞台に立つ人々に贈る作品となっている。
マチュー・ガニオ、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アマンディーヌ・アルビッソン等、最高位のエトワールたちが、かつてない状況下、“オペラ座の宝”といわれる演目、ヌレエフ振付の超大作「ラ・バヤデール」の年末公演に向け稽古を重ねていく。しかし、再びの感染拡大に伴い、開幕目前に無観客配信となり、初日が千秋楽となる幻の公演となってしまう。心技体が揃う絶頂期が短く、42歳でバレエ団との契約が終了となる彼らにとって、それは落胆の決断であった。だが、そんな激動の中で新エトワールが誕生―。カメラはダンサーたちの心境に寄り添いながら、本番までの特別なシーズンを捉えていく。こうして、芸術の殿堂パリ・オペラ座の新たなる歴史の幕が上がる。
映画では閉鎖からの復活の日々をカメラに収め、ダンサーたちの心境に寄り添いながら、ひとつの舞台が完成されていく過程を映し出す。
「1日休めば自分が気づき 2日休めば教師が気づく 3日休めば観客が気づく」という厳しいバレエの世界。それなのに長い休演期間。しかも復活演目は超大作、かつ難曲のヌレエフ版『ラ・バヤデール』。
ようやく決まった公演。稽古場にダンサーが続々と集まってくるところから映画は始まる。期待と不安がないまぜになったダンサーの表情。それを解きほぐし、臆病なくらいにゆっくりとした稽古が続く。積み重ねの中で、ようやく自信を取り戻したダンサーたち。表情が緩む。
繊細なタッチでダンサー一人一人が抱える不安、焦燥を映像化する。放置されていた稽古場、隅に置かれたトウシューズも擬人化され、集うダンサーの心の裡を反映させている。この繊細さは女性のもの。監督はプリシラ・ピザート氏、やはり女性だった。
稽古で身体をならしてゆくダンサーたち。コール・ド・バレエの不揃いが、図らずも明らかにした空白期間の大きさ。それでも着実に稽古の成果があらわれる。
ダンサーと振付師の共同作業が一つの作品となって結実する。普通ならこういう稽古場面は見られないのに、ここでは容赦なくカメラがダンサーと振付師の表情を舐め回す。汗が滲み、やがて滴り落ちる。激励と叱咤とを、飴と鞭を交互に駆使しつつダンサーに寄り添う振付師。より美しく、より艶やかにと繰り返される跳躍と舞踊。いつしか見る側もこの場に同化している。リハーサルもつつがなく終わった。満を持しての公演になるはずだった。
しかし開幕4日前、オペラ座再封鎖。公演中止(無観客の舞台が2020/12/13に配信された)。
このアンチクライマックスから、映像は次の公演、『ロミオとジュリエット』へと跳んでいる。こちらは有観客の普通公演。普通がどれほどすごいことかを知らしめたギリギリの『ラ・バヤデール』公演の中止。この二公演を対比させることで、ダンサーたちや関係者の悲喜交々をよりリアルに感じることができた。
42歳でバレエ団との契約は終了となる。時間との闘いは個々のダンサーにとって死活問題である。長期間の「おやすみ」はそのまま死を意味している。その焦りを赤裸々に語ったのが『ラ・バヤデール』主役を踊ったユーゴ・マルシャンだった。
確かにつぎの『ロミオとジュリエット』では若いダンサーたちが主役を張っている。アンコールでの舞台挨拶ではアレクサンダー・ネーフ(パリ・オペラ座総裁)、オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)二人が新エトワールを発表した。年齢が意味を持つことが、よくわかった。新エトワールのポール・マルク、確か『ラ・バヤデール』稽古シーンで、瑕疵のない跳躍と舞踊の素晴らしさで、仲間から拍手されていた人ですよね。
伝統の中に打ち込まれる時間の点描。その厳しさがひしひしと迫る瞬間の一つ一つをいとおしみつつ映像化した作品だった。登場したダンサーが呟くひとことひとことが詩になっていた。
なお、この『ラ・バヤデール』公演については「Chacott」サイトで三光洋氏が詳細に解説されている。内容解説、批評、写真等も満載で、まるで舞台を見ているような気持ちになる。秀逸な批評である。タイトルは「パリ・オペラ座の新プラットフォーム<ロぺラ・シェ・ソワ>がスタート、ヌレエフ版『ラ・バヤデール』を有料配信。そして観客公演再開は延期された。リンクしておく。