yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「ルグリ・ガラ」@東京文化会館(NHKBS2 10月15日深夜放送 8月22、23日分採録)

「ルグリ・ガラ」の公式サイトをリンクしておく。

関西ではフェスティバルホールが会場だった。ガラ公演はオーレリー・デュポンの「バレエ・スプリーム」(パリ・オペラ座x英国ロイヤルバレエ)のチケットを確保していたので、こちらは断念したのだけど、逆にしておくべきだったかも。とにかく感動した。16曲あったのだけど、どれもが「珠玉の」という形容がふさわしい素晴らしいバレエ。録画を見始めたら、止まらず、結局最後まで中断なく見てしまった。

「ルグリ・ガラ」の放映があることを、よく参考にさせていただいている「la dolce vita」さんのブログで知り、本当にラッキーだった。「えい!」と待ち構えていたのだけど、何しろ深夜12時始まり。で、途中で沈没。でもしっかりと録れていて貴重な録画になった。ありがとうございます!

ルグリのプロデュース能力の高さをいやというほど認識させらた。ただ単に彼の率いるウィーン国立バレエ団のダンサーたちと他バレエ団のダンサーたちを並べただけに終わっていない。構成にひと工夫もふた工夫もある。そこからルグリの意思とこれからの展望がはっきりと伝わってくるものになっていた。彼も自身の肉体への挑戦を試みていて、ここにも強靭な意図を感じた。最初に彼の名を知ったのはNHKで2012年の正月に放映された「ウィーン・ニューイヤーコンサート」でだった。記事にしている

それまでさほど有名ではなかった「ウィーン国立バレエ団」。ルグリが芸術監督に就任してから、俄然その名を知られるようになった。レベルが飛躍的に上がったから。で、その年(2012年)5月に来日した「ウィーン国立バレエ団」公演を見たんですよね。『こうもり』だった。それまで考えていたバレエのイメージを覆され、それ以降バレエも見るようになった。だから彼は私をバレエに導入してくれた「恩人」でもある。ルグリについて、要領を得た解説が「ルグリ・ガラ」の公式サイトに付いていた。以下。

並ぶ者なき現代最高の至宝マニュエル・ルグリ。パリ・オペラ座バレエ団引退から8年を経てなお、その比類ない存在は彼が築いてきた数々の伝説と共に褪せることなく光彩を放ち、ファンを魅了している。

そんなルグリが自らのバレエ人生における一つの集大成とも位置付ける本公演では、ダンサーとして、芸術監督として、そして振付家として、卓抜した芸術性のもと世界を牽引し続ける彼ならではの審美眼により、選りすぐられたスターダンサーたちが国境を超えて集結。バレエの殿堂――パリ・オペラ座バレエ団、英国ロイヤル・バレエ団、ボリショイ・バレエ、そしてルグリのもと近年劇的な進化を遂げているウィーン国立バレエ団が誇る百花繚乱の才能が、エレガンス、ダイナミズム、ドラマ性等、バレエ芸術のあらゆる魅力を堪能させる、この至極のガラをぜひお見逃しなく!

上にある「ルグリのもと近年劇的な進化を遂げているウィーン国立バレエ団が誇る百花繚乱の才能」の一節、まさにこの公演の核になるダンサーたちを表している。

<Bプロ>
放映された曲には、上のサイトにあった曲目一覧中「ジュエルズ」(“ダイヤモンド”)はなかった。以下には曲とダンサー(その所属)のみを挙げる。 振付師を知りたい方は、上記サイトをご覧ください。

「エスメラルダ」
ウィーン国立バレエ団
ナターシャ・マイヤーNatascha Mair  ウィーン国立バレエ団/ソリスト
ヤコブ・フェイフェルリックJakob Feyferlik ウィーン国立バレエ団/ソリスト

「I have been kissed by you」
エレナ・マルティンHelena Martin
パトリック・ド・バナPatrick de Bana

『…Inside the Labyrinth of solitude』
ジェロー・ウィリックGéraud Wielick ウィーン国立バレエ団 デミ・ソリスト

「海賊」第二幕からアダージョ
ニーナ・ポラコワNina Poláková ウィーン国立バレエ団/プリンシパル
デニス・チェリェヴィチコDenys Cherevychko ウィーン国立バレエ団/プリンシパル

「Whirling」
ニーナ・トノリNina Tonoli
ジェームズ・ステファンJames Stephens

「Movement of the soul」
ニキーシャ・フォゴNikisha Fogo  ウィーン国立バレエ団/ソリスト

「ジゼル」からパ・ド・ドゥ
マリアネラ・ヌニェスMarianela Núñez  英国ロイヤル・バレエ団/プリンシパル
ワディム・ムンタギロフVadim Muntagirov 英国ロイヤル・バレエ団/プリンシパル

「ファラオの娘」
オルガ・スミルノワ  ボリショイ・バレエ団プリンシパル
セミョーン・チュージン ボリショイ・バレエ団プリンシパル

「ランデヴー」
イザベル・ゲラン
マニェル・ルグリ

「タランテラ」
ニキーシャ・フォゴ
ジェロー・ウィリック

「Morzart à 2」より
ナターシャ・マイヤー
ヤコブ・フェイフェルリック

「フェアウェル・ワルツ」
イザベル・ゲラン
マニュエル・ルグリ

「白鳥の湖」より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」
ニーナ・ポラコワ
デニス・チェリェヴィチコ

「Factum」
エレナ・マルティン
パトリック・ド・バナ


「ドン・キホーテ」
マリアネラ・ヌニェス
ワディム・ムンタギロフ

「Moment」
マニュエル・ルグリ ソロ
(世界初演)
マニュエル・ルグリ

この一覧を俯瞰しただけで、ルグリが今考えていることが見える気がする。ウィーン国立バレエ団のプリンシパルと若手ダンサーの配置の仕方。また彼らの組み合わせ方。そしてルグリ手勢の彼らの間にロイヤル・バレエ、ボリショイ・バレエのトップダンサーを入れ込んでいる。それぞれのダンサーに、「あのバレエダンサーならあの曲」っていう得意曲を踊らせて。

しかもこの構成はそれだけでは終わらない。ルグリ自身が監督ではなく踊り手として参加する。最後のソロを除けばかってオペラ座時代にパートナーであったゲランが相手。若いダンサーユニットの間にさし込まれた中年の男女の恋愛、結婚、破綻、別れ。その三層をドラマ仕立てで見せる。これ、すごいですよね。これらが挿入されることで、他のダンサーたちが表現した「美的世界」が乱され、覆される。俗を超えた別次元として屹立していたバレエの形而上学的世界の転覆。ルグリ自身が中年であり、ダンサーとしての限界をいやというほど感じていたはず。でもあえて踊る。そこに彼の意思を見る。

それが頂点に達するのが最後のソロ、「Moment」。勅使河原三郎を、あるいはButohを思わせるある種異様な動き。今この瞬間にのみ、彼の存在がある。それは決して単に「美しい」ものではなく、この瞬間に刻まれた彼の肉体の時間(時刻)であるという、所信表明の気がした。

「大御所」のオルガ・スミルノワもマリアネラ・ヌニェスもステキではあるのだけれど、私はコンテンポラリーダンサーの化身のようなジェロー・ウィリックとニキーシャ・フォゴに特に感動した。きっと近いうちにウィーン国立バレエ団を代表する踊り手になるだろう。