yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

アイザックソン著『スティーブ・ジョブズ』へのThe Economist の書評

Tweet しているThe Economist から2日前にこの記事情報を得ながら、それについて書くのがのびのびになってしまっていた。

『スティーブ・ジョブズ』をKindle で読んでいるのだが、(とばしまくって)真ん中より少し先55% あたり(Kindleではページがワカラない)に来ていよいよiPod誕生の佳境に入っている。それとこのThe Economistお記事を併せて読んでとても興味深かった。このiPod誕生については別稿にするので、ここではこの記事に紹介されているアイザックソンと彼の優れた洞察力と伝記作家としての筆力について書いてみたい。

この記事、タイトルは"Insanely great: A balanced portrait of a complicated and compelling man" となっている。ここからも明らかなように、この伝記を、「あっぱれ、よくやった」と高く評価している。まったく同感。まずハードカバー版の表紙から褒めている。

ジョブズは伝記にあるようにiPod を世に出すのに、あくまでも「高貴な白」白の中の白(the whitest white)に拘ったのだが、それをこの表紙にも適用したアイザックソンの拘りも賞賛している。

アイザックソンが伝記の前半で決してジョブズを美化していないところも評価している。前半はジョブズの友人、そしてガールフレンドへの取材をもとにした内容になっていて、そこから浮かび上がるジョブズ像はエキセントリックで自分勝手、目的の為には手段を選ばないといったイヤな奴である。それでもそれを帳消しにしてしまう才能、魅力があったのではあるが。アイザックソンの筆はそういうジョブズの側面を容赦なく曝け出している。

もう一点このレビューが評価しているのが、アイザックソンがジョブズが単に独り相撲で勝ち進んだ辣腕のワンマン経営者としてではなく、必要とあらば人の優れたアイデアを借り、また優れた才能の人物をひきぬいて、アップルをここまでにすることができたことを「正確に」描写しているところである。書評はその例としてアップルの新しいCEO のティム・クック(Tim Cook) を挙げているが、私の印象に一番残ったのはiPodの開発の中心的役割を果たしたトニー・ファデル (Tony Fadell) である。叔父とスキーを楽しんでいたパンクルックのファデルが、彼の天才ぶりを聞きつけてスキー場にやってきたジョブズの右腕のルビンシュタインと会い、そのあとイヤイヤアップルに参加する一連のエピソードは、胸躍る話である。まだ学生気質が抜けず、自由を満喫したいファデルを説得するところが、実に面白かったし、アイザックソンの筆が冴えているところでもあった。

もう一つこのレビューが評価するのが、ジョブズがそれまでのそれぞれ独立していたハード、ソフトのテクノロジーとその企業を一つにまとめあげ、それによって独自のデザインをすることが可能になった過程を、アイザックソンが実に丹念に辿り、そして生き生きと描いている点である。その筆力のおかげで、ジョブズのデザインへの拘り、彼の美学が読者にありありと伝わってくるのはスゴイ。

この伝記がジョブズの健康の問題もあって、時間的にかなりタイトなスケジュールで書かれたため、問題点がないわけではないものの、ジョブズが望んだ形になったことは間違いないだろうと、この書評はアイザクソンを絶賛している。紙版だと600ページを超えるというこの伝記、ここまで一人の天才を正確に描いたものは過去にもこれからもそうないと思う。

アイザックソン(1952年生まれ)についてこの記事がアインシュタイン、ベンジャミン・フランクリンの伝記作者と紹介していたので、遅まきながらWikiであたってみた。そして驚いた!なんとCNNのCEO を、またオバマ政権の放送委員会の顧問でもあったという経歴の人である。大学はハーバードで専攻は文学、歴史だったということで、ジャーナリスティックというより文学的な格調の高い文章の理由が納得できた。