yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

天皇陛下が訂正されたという五輪憲章第5章の第5項目(55)にある和訳文の「間違い」について

今上陛下を珍しく持ち上げているAERA記事。題して、「東京五輪、天皇陛下はJOCの「誤訳」をさり気なく訂正 開会宣言に垣間見えた元首の器」(8/7(土) 9:00配信)

news.yahoo.co.jp

以前の当ブログ記事に宮内庁と組織委員会とが協議して、宣言にある「celebrating祝い」を「記念」に置き換えたという件をアップした。ただし五輪憲章サイトでその文言の雛形がどうなっているかの確認はしていなかった。で、このアエラ記事を読み、JOCの「五輪憲章」サイトにアクセスして見た。英和対訳になっている。「五輪開会宣言」雛形は第5章の第5項目(55)としてPDFファイル形式で、誰でも読むことができる。リンクしておく

そこにあった開会宣言雛形は以下。

I declare open the Games of … (name of the host) celebrating the … (number of the Olympiad) … Olympiad of the modern era.

 

JOC訳

「わたしは、第 32回 回近代オリンピアードを祝い、東京オリンピック競技大会の開会を宣言します。」

でもこの訳だと”celebrating”が “(the number of )the Olympiad”にかからない。つまり“(the number of )the Olympiad”を「祝うところの」とならないので、一応原義に沿って忠実に訳せば以下。

「わたしは第32回近代オリンピアードを祝う(ところの)東京大会の開会を宣言します。」

しかしこれではいささか日本語として納まりが悪い。そこで、意味を汲み取っての憲章掲載JOC訳になったと思われる。だからJOCの誤訳というより意訳とみるべきだろう。

JOC訳はそのまま1964年の昭和天皇の東京大会での宣言になっている。昭和天皇の開会宣言は以下。

「第18回近代オリンピアードを祝い、ここにオリンピック東京大会の開会を宣言します。」

しかし「祝う」とすると、ちょっと収まりが悪いのも事実。”celebrating”には確かにオリンピックは(ある意味祝祭なので)「祝う」意味もあるけれど、もっと原義に還って「記念する」とした方が納まりが良いのでは。

陛下の開会宣言は以下。

「ここに、第32回近代オリンピアードを記念する東京大会の開会を宣言します。」

"I hereby declare the opening of the Tokyo Games to commemorate the 32nd Modern Olympiad."

日本文も英文の方もスマートでスッキリしている。無理に「celebrating」を入れなかったことが大きい。以前にこの件を採り上げた当ブログ記事では、わたしはそこに陛下の想い、「celebrating」が孕む祝祭性を忌避するという陛下の想いを読み取ったのだけれど(そして確かに宮内庁の動きは陛下の想いを汲みとってのものだったのだけれど)、そうばかりでもないかもしれない。

というのも、Wikiの「List of people who have opened the Olympic Games」に当たって見たところ、興味深いことがわかったから。それは、明仁天皇の長野での冬季オリンピックでの開会宣言である。和文は不明なので、英文をアップする。

"Here, I will declare the opening of the XVIII Olympic Winter Games in Nagano."

あっさりと「開会を宣言する」のみである。これはこれでスッキリしている。明仁天皇も「celebrating」は省いていた。

一応参考として、Wikiにアップされていた何人かの国家元首たちの宣言文をあげておく。

1.IOCの雛形(フォーマット)どおりのもの

○ 米クリントン大統領のアトランタ夏季オリンピック(1996) のもの

"I declare open the Games of Atlanta, celebrating the XXVI Olympiad of the modern era."

○ 英国エリザベス女王のロンドン夏季オリンピック(2012)でのもの

"I declare open the Games of London, celebrating the XXX Olympiad of the modern era."

 

2.異色?版

○ 米レーガン大統領のロサンジェルスロサンジェルス夏季オリンピック(1984) でのもの

"Celebrating the XXIII Olympiad of the modern era, I declare open the Olympic Games of Los Angeles."

最後のもの、いかにも元役者のレーガン大統領の本領発揮というところ。 ここではしっかりと「祝って」が頭にきている。あえてIOC雛形が孕む「祝う」の意味を入れるなら、わたしとしてはこの形で入れるのが最も納まりがいいように感じる。

 

ただ、今上陛下の宣言が、和文もそうだけれど英文になったものを見ても、最もモダン?というか現代的であるという印象。この宣言にある「celebrating」という「深読み」を許す文語調の語を「記念する commemorate」に差し替えることで、そのままダイレクトに意味が伝わるものとなっている。細部にわたって私たちへの目配りが行き届いた現代的な表現と言えるかもしれない。それがとても奥ゆかしく感じられる。

ともあれ、反徳仁天皇の旗手である(?)AERAが、当該記事でまるで鬼の首でもとったかのごとく陛下を持ち上げているのが、少々気味悪く見える。何か裏があるのでは?穿ち過ぎでしょうか。