yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「男系男子」に固執する日本会議と神社本庁の結託はなぜ起きたか?

近くの図書館がやっと「予約本のみ貸し出し可」となった先月末、「神社本庁」と「日本会議」との関係を知りたくて、本を何冊か借り出した。

『日本会議の人脈』(三才ブックス、2016年9月)はこの会議の主要メンバーとそれぞれの人物の簡単なバックグラウンドを明かしてくれていて、人脈事典のように使えそう。巻末には日本会議を支える神社本庁という構図が浮かびあがっている。人脈といえば、実に多岐にわたっているのに驚かされる。何人か挙げてみる。

安倍晋三 日本会議国会議員懇談会 特別顧問

麻生太郎 日本会議国会議員懇談会 特別顧問

前原誠司 日本会議国会議員懇談会会員

櫻井よしこ 美しい日本の憲法を作る国民の会 共同代表

その他主要会員(2016年時点)を写真に撮ったのが以下。歪んでいるのは何卒ご容赦。

f:id:yoshiepen:20200604124546j:plain

 

野党の前原氏がメンバーとは意外だけれど、あの小池百合子氏もメンバー!カメレオンのように機を見るに敏であるこの人らしい。会員は政治家のみならず、広きにわたる。元都知事の石原慎太郎、デザイナーの桂由美、茶道の千玄室、作家の百田直樹各氏等々。安倍政権に閣僚として入った人はほぼ全員がメンバー。

関連団体は「美しい日本の憲法を作る国民の会」、「明治の日推進協議会」、「民間憲法臨調」、「日本女性の会」。

また、公になっている日本会議の趣旨は以下。

1. 新憲法制定

2.永住外国人への地方参政権反対

3. 首相の靖国神社参拝支持

4. 教育基本法の改正反対

5.皇室典範改正反対運動

私個人としては、韓国、北朝鮮、中国という日本を仮想敵と認定している反日国家と対峙し、暗躍するスパイの潜入活動を食い止めるには、1、2は必要だと思っている。しかし、5(そして4)には反対である。ただ、今まではさほど奇異に感じていなかった1から3の項目だけれど、5から逆照射して見ると、違った風景が見えてきてしまった。「志を同じくする役員の有志連合」を標榜する日本会議という組織、その最もコアにあるのが5なのではと思えてきたから。

この小冊子に収められたインタビューで、『日本会議の研究』(扶桑社、2016年4月刊)の著者である菅野完氏が日本会議のことを以下のように定義している。曰く、「日本会議は綿菓子のようなものと思っている。綿あめそのものには実態がありません。綿あめが商品として成立するのは、割り箸などの棒が存在するからです」と。また、「その『棒』の実態こそが事務局を担う『日本青年協議会』」と断じ、そこに君臨するのが安倍首相だと言明しているのが、実に興味深い。

ただ、菅野氏がいうようにこの綿あめが「愛国おじさん、愛国おばさん」だけではなく、今では若い層にも広がっているのだ。「安倍ちゃん大好き」な新しい保守層が取り込まれている事実を押さえておくべきだろう。

この「綿あめ」はたやすく膨らませることができるのだけれど、いかんせん実態が曖昧模糊としていて、つかまえどころがない。それはこの日本会議のあり方そのものでもある。つかまえどころがないのが組織存続、拡張に利する場合と、逆に難点になる場合とがあるだろう。いまのところ、このメンバーを見る限り、千客万来、なんでもありのようである。会議自体の核、かつ背景となる思想・哲学が欠如しているからそうなる。

それをあぶり出すのが5の「皇室典範改正反対」である。この5は3の「首相の靖国神社参拝支持」と4の「教育基本法の改正反対」の下部構造(土台)になっている。4の「教育基本法の改正反対」は、小中高の歴史教育の見直しであり、戦前の(もっと前の明治の)ものに戻そうということだろう。これには到底承服できないけれど。

この「皇室典範」条項が1、2と違っているのは、バックアップする思想が要請されるから。1、2はいわば対外的対処療法である。1の「新憲法制定」は「9条改正」を目指しているし、2の「永住外国人への地方参政権反対」も、暗躍するするスパイ活動を止める方策の一つだろう。だから実務レベルの対処策と言えるかもしれない。

ただ、3、4条項の土台となる5の「皇室典範改正反対運動」はその背景を歴史的、さらには哲学的に示さなくてはならない。これには「思想」が要請される。「思想」を保証、担保するのが5なのである。では、なぜ、この5の「皇室典範改正反対」というのが他の条項にはない「思想」足りうるのか。

それは、5の「皇室典範改正反対」こそが「天皇」の必然性を開示し、さらにはそれを広げて「国家神道」の必要性を明らかにし、ひいては「日本」が日本たりうる道を示すことができるからではないか。つまり1から4までの条項、その意義は、この5があって初めて存在しうる項目ということである。少なくとも主宰者はそのように考えているのではないか。

しかも、この5から透けて見えるのは明治に制定された国家統制のための「国家神道」とそれに倣う「皇室典範」である。そこでは「男系男子」が定められていた。それを下部構造として確立(establish)することで、上部構造である他は自動的に保証されるというのが、日本会議の根底になっている「思惑」だろう。1から4までがこのように5によって思想を得、存在を決定付けられるとなれば、彼らは何としてもこの5にしがみつくだろう。

皇室と「国家神道」を思想背景として利用し、あえて「神社本庁」という新しい組織と結びつくことが大きな意味を持っている。しかもそれこそが、日本会議のキモである。日本会議の構成員の多くが「神道政治連盟国会議員懇談会」のメンバーでもあるところに、それがよく表れている。ただ、そのメンバーの多くはあまり思想や哲学とは縁がなさそうではあるけれど。ただ、西洋の弁証法を援用して成立するきっかりとした「国家神道」的なものと、いかにも綿菓子のような日本人的いい加減さはそう簡単に相入れないとは思う。この齟齬がある以上、日本会議と神社本庁の「企み」がうまくゆくとは思えない。

以下に神社本庁の成立と活動をあげておく。

1872年(明治5年)、伊勢神宮の少宮司で教部省にも所属した浦田長民神宮教会を設立した。

1898  全国神職会の結成、これで全国の神社の連携が強化される

1900  神職会は大日本神祇会に改称。これが神社本庁の前身団体の一つとなる

明治末期〜大正 皇室祭祀関連の規定の整備

     

1940  神祇院の設立

1945  GHQが神祇院を廃止。国家から宗教的要素を分離しようとする。

葦津珍彦は厳しい弾圧があると想定しており、皇典講究所吉田茂神宮奉斎会の宮川宗徳とともに打開策を探っていた

1946/2/3   神社本庁の設立

   全国の約8万社の神社が、神社本庁によって管轄される

1957/8/21   生長の家、修養団と合同で統一団体「紀元節奉祝会」を結成

紀元節(初代・神武天皇が即位したとされる日を日本国誕生の日とする)復活の運動

1969年  神道政治連盟が神社本庁を母体として設立

神道政治連盟国会議員懇談会(神道政治連盟の理念に賛同を示す超党派の日本の国会議員により構成)の結成。現在の会長は安倍晋三

 

第3次安倍内閣では、閣僚20人のうち公明党所属以外の19人が神道政治連盟議員懇談会の会員である。これはほぼ「日本会議」のメンバーと被っている。入っていない議員は河野太郎氏くらい?

 

各地の神社において、神社本庁が参加する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(櫻井よしこ主宰)が憲法改正を求める署名活動を行っている。

本来なら日本の神道、そして日本の神々は極めて流動的というか、柔らかい構造を持っていると思う。神道についてはこれから研究したいと考えている。私の研究対象である芸能の起源とも深く関わっているから。この「巨人」にどこまで太刀打ちできるのか、自信があるとは到底いえないのではあるけれど。とはいえ、ある程度踏み込むことができればとは願う。

最近読んだのは小林正弥氏の『神社と政治』(角川新書2016年9月刊)であり、そのアプローチに感銘を受けた。また、田中卓氏の『愛子様が将来の天皇陛下ではいけませんか 女性皇太子の誕生』(幻冬社新書、2013年12月)は素晴らしい論考で、首肯けるところが多々あるのみならず、男系男子派の問題点を論破されているのが、快かった。

それぞれの書評は後日書くつもりである。さらに、折口信夫を、そして、三島由紀夫の神道の考え方を、新しいところでは鎌田東二氏の本を読むつもりにしている。