オリンピックの動画も含めて、過去の羽生結弦選手の演技を動画で確認した。「花は咲く」のイメージとは違ったロック調の「パリの散歩道」。2013年頃からソチ・オリンンピック前後の動画での羽生選手、表現はパーフェクト。でも私が「花は咲く」で感じた彼のイメージとは違っていた。 何しろ私が初めて彼の演技を映像で見たのが、2014年12月のNHKで放映されていた「花は咲く」だったんですから。ソチはとっくに終わっていました。
「パリの散歩道」には曲独自のアンニュイな雰囲気が、ゆっくりとしたテンポで表現されている。アンニュイな要素は、「凛」というよりも「セクシー(sensual)」感を醸し出していて、驚いたものである。途中からの変調部もどこか彼のイメージとは違った感じがした。衣装もひらひらのついていないマスキュリンスタイルだし、色も落ち着いたブルーというところに、彼の意思を見た気がした。固定したイメージをぶち破る意思があったのかもしれない。
ソチでの演技、ジャンプは他のどの選手よりも決まっていた。高く、なめらか、何よりも美麗だった。点数よりも、この「美しく」というところによりこだわっているのが伝わってきた。衣装のストイックさを、さらにはセクシーさ(sensuality)を演技の華麗が呑み込んでいた。同じ土俵に立つ他の選手は、単独イメージしか表現できない。それに比して羽生結弦という選手は、内面の葛藤を、そこから生じる多面性を「常軌を逸した」華麗さで組み伏せ、のり超えて演技という形にしてみせていた。
「今回のカナダのEXにこの曲を選んだのは特に意味はなく、ただ懐かしくて」と彼は答えている。でも、この「懐かしい」という彼の言葉、これは「パリ散」以降、彼が直面した表現者として必然的にのりこえなくてはならなかった葛藤を、その楽ではなかった闘いを、反芻しているもののように思えた。しかもそれを昇華できた自身へのオマージュの意味が込められているような気がした。
今から昨日録画したフリー演技を「鑑賞」させていただく。ちょっと怖いような、でもワクワクするそんな感じ。