yoshiepen’s journal

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幸四郎・猿之助のダブルキャストが面白い『弁天娘女男白浪』in 「三月大歌舞伎」@歌舞伎座 3月8日夜の部

 

幸四郎・猿之助の遊び心から生まれる滑稽感

「浜松屋見世先」より「稲瀬川勢揃い」までの二場構成。そして、斬新(?)な幸四郎・猿之助のダブルキャスト。弁天小僧は二人とも「自家薬籠中の役」と思いきや、そうでなくてびっくり。「歌舞伎データベース」で調べたところ、幸四郎は染五郎時代の1994年8月、国立劇場の小劇場で一度演じたのみ。猿之助は亀治郎時代の2004年10月に三越劇場で、また2008年7月に巡業で演じた2回。というわけで、二人にとってはかなりの冒険だったはず。そう知っていれば、もっと目を凝らして見たのにと、残念。

そう考えると、この二人の「挑戦」が遊び心から来ていたことが分かる。あの(二人が共演した)「弥次喜多」のノリですよね。どんな結果が出るのか、それを観客と一緒に楽しむという姿勢。どちらかというと二人のニンから外れているんですよね、弁天小僧の役は。だからこそ、そこにズレが生まれる。幸四郎と猿之助は、そのズレが醸し出す滑稽感を狙っていたのでしょう。

 私が見たのは偶数日だったので猿之助が弁天小僧、幸四郎が南郷力丸だった。二人の息はぴったりと合っていて、小気味よかった。弥次喜多役での滑稽な応酬を思い出してしまった。「浜松屋見世先」の場がコメディになっているのを、改めて認識させられた。幸四郎が弁天小僧をやれば、滑稽感はより際立ったはず。それを確認できずに残念ではある。

二人の思惑は?

ただ、猿之助自身は違った方向を狙っていたようである。「筋書き」掲載のインタビューでは、「若者の持つ中性的な部分をどこまでも大切に、というのが伯父(猿翁)の教え。それは南郷との関係性にも影響しています」と語っている。これって、「大真面目に演ります!」という意味ですよね。でも実際の舞台では若者の中性性はさほど感じられなかった。どこまでも大役者の演じる弁天小僧菊之助だった。

幸四郎の方は「役になりきって、どう動いても弁天、南郷に見えるように、頑張ります」との所信表明をしている。また、鬘、顔の傷、襦袢の襟を猿之助とは異なった形にするとのこと。猿之助版とは差別化を施すということだけれど、そりゃ、猿之助の方が長く女方を演じてきた分、より弁天小僧っぽいでしょうよ。だから、「どう動いても弁天」に見えるのは、(二人の弁天を比較したら)当然猿之助のはず。そういうことも分かりきってのこの言明なのがおかしい。データベースに当たったおかげで、彼の演じてきた役柄をスキャンした結果、彼はたちの演じる女悪役や、文字通りの悪の役を好んで演じていた。屈折した役というか、メタ化をより施せる役というか。そういうのが彼の好みなのだと分かった。だから、この弁天もその路線で演じているはず。ああ、確認できなかったのが本当に残念。

意外と「大真面目」(?)な幸四郎と猿之助

 この場最後の花道での弁天と力丸との按摩を挟んでの掛け合いは、誰が演じてもおかしいけれど、今回のはちょっと違った印象が。弁天と力丸の二人、チャラいチンピラのはずだけれど、そうは見えない。「軽さ」が少なめなのは、多分キャラが違うんでしょう。それと、初役に近いので、幸四郎・猿之助共々結構「真面目に」演じていたのかもと、勘ぐってしまった。

白鸚の大きさ

第二場の「稲瀬川勢揃い」では、白浪五人男が勢揃い。猿之助の弁天、幸四郎の力丸、亀鶴の忠信利平、そして笑也の赤星十三郎が居並ぶ。そこに、日本駄右衛門の白鸚が悠々と登場。さすがの雰囲気。もちろん前場でも出は合ったのだけれど、こうやって若手を従えると大きさが際立つ。

以下に「歌舞伎美人」サイトからお借りした配役、見どころをアップする。

弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)

<配役>

弁天小僧菊之助   幸四郎(奇数日)
          猿之助(偶数日)
南郷力丸      猿弥(奇数日)
          幸四郎(偶数日)
鳶頭清次      猿之助(奇数日)
          猿弥(偶数日)
忠信利平      亀鶴
赤星十三郎     笑也
浜松屋伜宗之助   鷹之資
番頭与九郎     橘三郎
狼の悪次郎     錦吾
浜松屋幸兵衛    友右衛門
日本駄右衛門    白鸚

黙阿弥の名台詞が心地よい白浪物の傑作

 白浪五人男と呼ばれる盗賊の弁天小僧菊之助と南郷力丸は、呉服屋「浜松屋」に武家の娘と若党を装い、騙り目的でやって来ます。娘が万引きしたと騒ぎになると、鳶頭清次が仲裁に入るも収まらず、奥から浜松屋の主人幸兵衛が現れ、事を穏便に済ませるため二人に100両を渡します。首尾よくせしめた金を手に店を後にする二人を、玉島逸当という侍が呼び止めますが、この逸当こそ五人男の首領、日本駄右衛門。弁天小僧、南郷とともに浜松屋から金を巻き上げようとする企みだったのです。その後、追手を逃れた白浪五人男は稲瀬川に勢揃いし、名のりを上げます。
 幕末の作品らしい官能美と退廃美が漂う、河竹黙阿弥の代表作。七五調の名ぜりふの数々で魅了する世話物の人気狂言を、日替りの配役で上演いたします。 

 

最後に、チラシ表と開演前の歌舞伎座前を撮った写真をアップしておく。弁天小僧は、左が猿之助、右が幸四郎。

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