yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

能『鉢木』 in 「平成29年林定期能納会」@京都観世会館12月3日

納会ということもあるのか、ほとんどの席が埋まっていた。二階席もいっぱい。私は朝グズグズしていて、正午の開演に少し遅れてしまった。河村晴道さんの「本日の演目について」のほとんどを聞き逃してしまった。残念。今年の9月の「林定期能」でのお兄さまの河村晴久さんの当日の演目、『実盛』の解説がとても勉強になったから。昨日も解説チラシが配られ、A5用紙裏表にびっしり印刷された能全般に渡る解説が素晴らしい。もちろん当日の演目紹介もとても懇切丁寧。ここまでのものは初めて。能楽師(能役者)の方々の意気込みがよくわかる。

以下にWikiからの能『鉢木』解説を引用させていただく。

ある大雪の夕暮れ、下野国の佐野荘(現在の栃木県佐野市)の外れにあるあばら家に、旅の僧が現れて一夜の宿を求める。住人の武士は、貧しさゆえ接待も致されぬといったん断るが、雪道に悩む僧を見かねて招きいれ、なけなしの粟飯を出し、自分は佐野源左衛門尉常世といい、以前は三十余郷の所領を持つ身分であったが、一族の横領ですべて奪われ、このように落ちぶれたと身の上を語る。噺のうちにいろりの薪が尽きて火が消えかかったが、継ぎ足す薪もろくに無いのであった。常世は松・梅・桜のみごとな三鉢の盆栽を出してきて、栄えた昔に集めた自慢の品だが、今となっては無用のもの、これを薪にして、せめてものお持てなしに致しましょうと折って火にくべた。そして今はすべてを失った身の上だが、あのように鎧となぎなたと馬だけは残してあり、一旦鎌倉より召集があれば、馬に鞭打っていち早く鎌倉に駆け付け、命がけで戦うと決意を語る。
年があけて春になり、突然鎌倉から緊急召集の触れが出た。常世も古鎧に身をかため、痩せ馬に乗って駆けつけるが、鎌倉につくと、常世は北条時頼の御前に呼び出された。諸将の居並ぶ中、破れ鎧で平伏した常世に時頼は「あの雪の夜の旅僧は、実はこの自分である。言葉に偽りなく、馳せ参じてきたことをうれしく思う」と語りかけ、失った領地を返した上、あの晩の鉢の木にちなむ三箇所の領地(加賀国梅田庄、越中国桜井庄、上野国松井田庄の領土)を新たに恩賞として与える。常世は感謝して引きさがり、はればれと佐野荘へと帰っていった。

シテは河村能楽堂の当主である河村和重師。田舎侍の朴訥で謙虚なサマが浮かび上がる。能では歌舞伎で言う所のニンにぴったり。もっとも歌舞伎では「ニン」というタームを用いないのかもしれないけど。侘しいその生活ぶりには似つかわしくない優雅さをこの田舎侍が持ち合わせていることが、「駒とめて袖うちはらふ陰もなし 佐野の渡の雪の夕暮れ」と歌を詠むところ、さらには故事「邯鄲」に言及するところに表れている。

かっては領地を持っていたのだが、今は尾羽打ち枯らしている。それでも武士の気概を備えた男として描かれている。その感じがうまく出ていた。心づくしの粟飯をふるまうところに(「粟飯」が「邯鄲」を連想させる)、鉢に植えた木を燃やして暖を取らせようとするところにこの男の優しさが示される。と同時に以下の詞にはこの男の忠義なところが遺憾なく示されている。ここ最も胸を打つ。

只今にてもあれ鎌倉に御大事あらば。ちぎれたりとも此具足取つて投げかけ
錆びたりとも長刀を持ち 痩せたりともあの馬に乗り 一番に馳せ参じ着到に附き
さて合戦始まらば。

「錆びたりとも長刀を持ち 痩せたりともあの馬に乗り」のところ、まるでそのサマがありありと眼に浮かぶようだった。これにはかりに北条時頼でなくとも心を打たれたはず。さらに私たち観客は次のシーンでもこの男、佐野源左衛門常世に一層泣かされる。「いざ鎌倉」と召集がかか理、きらびやかな武具に身を飾った武士たちが次々と馳せ参じる中に、錆びついた武具をつけ痩せ馬のあとを追う常世の姿がある。

よれによれたる痩馬なれば。地「打てどもあふれども。
先へは進まぬ足弱車の乗り力なければ負ひかけたり。

嗤れても仕方ないありさまには惨めさというより、どこかおかしさがある。その様子をシテはよく表していた。こういうのを自然体で演るにはやはり年季が要るのかもしれない。以下に演者一覧を。

シテ      河村和重
シテツレ    松野浩行
ワキ      福王茂十郎
ワキツレ    廣谷和夫
        嘉多雅人
アイ      茂山忠三郎
太刀持     山口耕道

大鼓      山本哲也
小鼓      曽和鼓堂
笛       杉市和

後見     河村和貴 大江又三郎

地謡     河村紀仁 樹下千慧 河村浩太郎 田茂井廣和 
       河村和晃 味方團 林宗一郎 田茂井廣道