yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『義経千本桜』から「狐忠信(きつねただのぶ)」〜市川猿之助宙乗り狐六法相勤め申し候〜@歌舞伎座6月6日第三部

まずはチラシを。

内容は二部構成。以下。

道行初音旅
(三代猿之助四十八撰の内)
川連法眼館
市川猿之助宙乗り狐六法相勤め申し候

「歌舞伎美人」からの「配役」と「みどころ」が以下。

「配役」
〈道行初音旅〉
佐藤忠信
(実は源九郎狐)  猿之助
逸見藤太       猿弥
静御前        染五郎

〈川連法眼館〉
佐藤忠信/忠信   
(実は源九郎狐)   猿之助
駿河次郎      松也   
亀井六郎      巳之助    
川連法眼      寿猿     
飛鳥         吉弥      
静御前        笑也
源義経        門之助


「みどころ」
〈道行初音旅〉
静と忠信主従の道行を華やかに描く舞踊
 桜の花が満開の吉野山。都を追われた義経の後を追って、静御前は、家来の佐藤忠信とともに旅をしています。休息している静に、忠信が壇ノ浦の合戦の様子を物語っているところへ、鎌倉方の追手がやって来ます。しかし、忠信は難なく蹴散らし、静を伴い義経の元へと向かうのでした。

〈川連法眼館〉
親を慕う子狐の恩愛とケレン味あふれる一幕
 吉野山中の川連法眼の館へ匿われている義経のもとに佐藤忠信が参上します。義経は、忠信に静の行方を尋ねますが、忠信は覚えがない様子。そこへ静が現れ、はぐれたはずの忠信を見て驚くところへ、もう一人の忠信が現れます。実は、静に付き従っていた忠信は、義経が静に与えた初音の鼓の皮になった狐夫婦の子で、鼓を慕い、道中で静を守護しながら付き従ってきたのでした。それを聞いた義経は、親を想う子の情愛にうたれその鼓を与えると、喜んだ狐の子は鼓を手に古巣へと帰って行くのでした。

「道行初音旅」と「川連法眼館」とで静御前の役者が違っているのが面白かった。「初音旅」の静、きっと染五郎が「やりたい」って言ったのでは。意外や意外(?)その静がとてもよかった。しおしおとした大人しめな感じ、登場してすぐには染五郎とは分からなかったほど。第二部の「すしや」で権太を演じたお父上の幸四郎への対抗心?幸四郎の女形は考えられないですものね。美女でなく岩藤なんてのはありかもしれないけど。この場での染五郎静、気品あふれるなかにも、どこか白拍子の色を残していて、良かった。もっと以前には彼も女形を演ったことがあったのかもしれないけど、私がみてきたのは立ちばかりだった。だからとても新鮮だった。今後も女形に挑戦していただきたい。他の若い女形に出せない味が出せるように思うから。

〈川連法眼館〉、先代の猿之助のときには全役を澤瀉屋でそろえていたはずだけど、今回は松也、巳之助、吉弥といった他家からの役者との合同。猿之助の思いを強く感じた。とくに巳之助とのコンビは2014年の「浅草歌舞伎」以来たびたびみている。先だっての『ワンピース』もしかりだった。大阪的にいうと「ぼけ」と「つっこみ」(いずれがそうだとは言いませんが)の組み合わせのようで、ひじょうにすっぽりとはまっている感じ。ただ今回の巳之助の出番はあまりなかった上、赤っ面の亀井六郎だったのにはがっかりだったけど。それでもあの声はすぐに彼だと分かる声。

猿之助は以前より源九郎狐のさまにより陰影が出るようになっていたように思う。ぽつんとしたさまがなんとも哀しげ。そして可愛い。陰影に関しては前猿之助より現猿之助の方がずっと出ていたのでは。とはいえ、前猿之助の源九郎狐をみたのはもう20年も前のこと、比較はフェアではないかもしれない。こういうそこはかとない陰影は歌舞伎的ではない。歌舞伎はもっと濃淡がはっきりしているから。きっと四代目の解釈によるものだろう。繊細な感性の猿之助らしい。

この陰影があるので、観客は源九郎狐にアイデンティファイできる。彼の悲しみが分かる。だから鼓を手にしたときの彼の喜びようが迫ってくる。この私ですら涙ぐんでしまったほど。この場面、感動的だった。

義経が偽忠信であった源九郎狐に鼓を下賜したのも、自身の境涯と照らし合わせ、源九郎狐に同情したから。となると、『義経千本桜』の最後の宙乗り(このときの猿之助のうれしそうな顔!)は、義経自身の「(兄に疎まれ、暗殺されそうになっている)自分も、母のいる『故郷』に飛んで行きたい」という、強い願望を表象しているようにも思える。この『義経千本桜』が平家の悲劇を描いていると同時に、それと連動させて義経の悲劇を描たものでもあった。こういう悲劇をみせられると、それでなくてもヒーローとしての義経好きだった当時の人は、より一層判官贔屓になったことだろう。