yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『A Louer/フォー・レント』by ピーピング・トム@兵庫県芸術文化センター中ホール3月1日

チラシとサイトにあった写真と紹介文。

舞台はかつて栄華を極めた貴族の館、もしくは古い劇場の一角のようでもある。
正面には深紅のカーテンが、巨大な広間に流れる時間を封印するかのごとく壁一面を埋め尽くしている。
おそらく競売にでもかけられているのであろうか、家具には白い布がかけられ、その時が訪れるのを静かに待っているかのようだ。
屋敷の執事が、女主人に来客を告げる。行き交うゲストの波に、懐かしい歌手の姿がフラッシュバックする。
その瞬間、途絶していた時間がゆっくりと流れだす…。ゆがみながら、未来へ、そして、過去へ……。
 

どことなく不穏な空気が漂うステージ上で繰り広げられる、アクロバティックなダンス、交わされるせりふと力強い歌声、そしてブラックユーモアが、妄想と現実、過去と未来の境界をあいまいにし、観客をファンタジーの世界へ誘います。妖しくも魅惑的な禁断の扉を開きに、ぜひ劇場へお越しください。

公演そのものにはかなりがっかりした。もとはベルギーのダンスカンパニーのメンバーだった人が立ち上げたグループのようである。そこにいろいろな国籍、背景の役者たちが加わり「ピーピング・トム」という形態になったということか。この公演では韓国出身のモダンダンサーが二人参加している。

モダンダンスをダンスという枠を超えて、演劇という他ジャンルとの融合を図ろうとしたことは、評価したい。そういう試みを日本でもやって来たし、また現在進行形でやりつつある。それが旧態依然とした古典演劇に風穴をあけることに成功してもいる。

ただこの公演はいけなかった。いくつかの問題点を挙げるが、もっとも良くなかったのは、テーマが定まらず、あまりにもごった煮すぎたこと。趣旨に歌っているように、「過去を象徴する館にその過去から色々な人物が到来、それが不穏な空気を生み出し、過去・現実・未来の境界を曖昧にして行く」といういうことが、まるで伝わってこなかった。登場する人物がそれぞれ勝手気ままに動いているような感じ。一つの劇を想定しているのであれば、そこにある種のインテグリティが必須だけど、ここで示されるバラバラな断片はそれぞれ脈絡のない断片のままだった。こういう新しい実験演劇(ダンス)のようなものを創りだすことの難しさだろう。主催者の「自己満足」終わっていた。観客のことはどこかへおきざりにしていた。

おそらくそこには作家、演出家、そして演者の傲慢があるように感じた。「われわれの高度な演劇(ダンス)哲学と技法をあなたがたにみせてあげますよ。どうです、すばらしいでしょう」といわんばかりの奢りを。チラシのことばをそのまま信用するなら、この作品は安倍公房の『砂の女』にヒントを得たのだという。これを読んでまったく白けてしまった。「どこが?」と、つっこみたくなった。『砂の女』の「現実、そして未来をどこまでも侵蝕し続ける時、それに無力な人間」という「哲学」は毫も感じられなかった。去年に同じく芸文センターで観た『春琴』に外国人が日本の芸術作品のアダプテーションをする際の難しさ、というより不可能性を感じてしまったのだが、それと同じ感慨を持った。

過去を「代表」するのが中年の女優、そしてその夫と思しき老人ということだろうか。この女優さんが特にいけなかった。この太った人を出す意味がどこにあるの?元オペラ歌手だったという想定なのだろうが、そしてその「過去の栄光」を忘れられない無惨さを出したかったのかもしれない。でもモダンダンスで鍛えられたダンサーの中にこういう不協和音を入れる必要があるのかどうか。

モダンダンスでも若い男を演じたダンサー(主催者の一人)の踊りの切れが悪かった。それに対して、韓国出身の二人のダンサーは秀逸だった。この二人が辛うじて技術的にもテーマ的にも全体をまとめる役を果たしているのがせめてもの救いだったかもしれない。

それにしてもなぜアジア人が「執事」(召使い)なの?ここにもステレオタイプから抜け出せないこの「実験演劇(舞踏)」の限界を感じてしまう。実験は常に「破壊」をともなうけど、そしてそれはときとして暴力的である。でもその暴力的なところが観客のこころを揺さぶるんですよね。それがまったくなかった。

演出家、演者たちとの間にコミュニケーションの齟齬があったのでは?もっといえば「理解度」レベルの違いがあったのでは。それが断片が断片のまま終わってしまうという結果となったのではないか。

以下宣伝用スティール。


当日もらったチラシにあったこの公演への主催者のメッセージ。画像で。

出演者を画像で。