yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『恋雨』劇団美山@鈴成座 1月7日夜の部

第一部 お芝居、『恋雨』
座長が口上でもおっしゃっていたように、「まるで昼ドラのような」芝居でした。昼ドラとは英語圏では「Soap Opera」ということなんですよね。言い得て妙だと感心しました。合わせて、ここまで客観的にみることのできるたかし座長、並の器ではないことが分りました。とはいいながら、大衆演劇のお芝居では泣くことのほとんどない私が泣いてしまうほどのかなり情に訴えてくるお芝居を、座長は「濃く、濃く」演じられたんですけれどね。

第一場 東京
板前の竜二(たかしさん)と妻おしず(エクボさん)は仲睦まじく幸せに暮らしている。ちょっとした口喧嘩も仲のよい証拠である。風呂から帰ってきた二人、おしずが丸髷を台無しにしたと怒っているのを、竜二は浅草、仲見世で買っておいた下駄をプレゼントして機嫌をとっている。そこへやくざの使いっ走りをしているまさ(こうたさん)がやって来て、竜二に助っ人を頼む。仕方なく出かける竜二。

雨が降っている。軒を借りて雨宿りをしようとやってきた男(京馬さん)、奥のおしずに声をかける。出てきたおしずはその男をみてびっくりする。それもそのはず、それは二年前に彼女を女郎屋に叩き売った元亭主の鉄だったから。鉄も驚くが、おしずにすがりつき、よりを戻して欲しいと懇願し、挙げ句の果てに家に上がり込む。逃げるおしずに向かって、「この二年の間俺のことを一度も思いださなかったのか」と迫る。その鉄に、「そりゃ夫婦だったんだもの、思いださなかったといったら嘘になる」と応えるおしず。あいにくと、その台詞を丁度帰宅した竜二が玄関先で聞いてしまう。怒った竜二。家の中に入って来て、鉄にすごむ。その気迫にタジタジとなる鉄。竜二はさらにおしずに「元亭主にあんなにひどい目に合いながら、思いだしたとはどういうことだ」と怒りの矛先を向ける。おろおろするおしず。竜二は女郎屋で働いていたおしずを身請けして、女房にしたのだった。竜二は怒りに任せ、おしずに「出て行け」といい、彼女に下駄をなげつけ、玄関を閉めてしまう。玄関先にしゃがみ込むおしず。鉄が嫌がるおしずの手を引いて立ち去る。

第二場 長崎
あれから3年が経過した。いまや長崎の「長崎屋」という旅籠兼女郎屋にいるおしずは、ぼたんという源氏名で店に出ている。今日も今日とて例の下駄を女郎屋のすぐ傍に店を出している下駄屋の源蔵(喜美子さん)に預けに来た。源蔵はなぜその下駄をそこまで大事にするのかと、不思議がる。というのも同じ下駄をいつも修理に出しにくるから。よほど大切な下駄、それも思い出の品なんだろうと憶測している。そこへ鉄がやってきて、店のものにおしずに会わせろと喚き立てる。店から出て来た男たちにたたき出され、捨て台詞を残して帰って行く鉄。

そこへ竜二がやってくる。なにか屈託ありげな様子に、源蔵が声をかける。二人は話すうちに意気投合。竜二が源蔵の手許に目をやると、どこか見覚えのある下駄がある。誰のかを聞きただす竜二に、女郎屋のぼたんという女郎のものだと答える源蔵。竜二は自分の大切な人の下駄に似ているのだと打ち明ける。下駄を預けた女の様子を尋ねる竜二に、源蔵はその女は「ぼたん「というより「夕顔」という風情だと応える。たしかにどこか淋しげ、儚げな様子はおしずそのものだと納得する竜二。その日の宿を自分宅にするように申し出る源蔵、店じまいをしながら、竜二に近くの居酒屋で待っているようにという。源蔵の申し出をありがたく受ける竜二。源蔵が立ち去る。そこに鉄がやって来て、竜二とぶつかる。顔を見合わせ互いに因縁のある間柄と気づく。「おしずはどこだ」と迫る竜二を振り切り、鉄は逃げさる。その騒ぎで女郎屋の二階の障子窓が開き、おしずが顔を出す。竜二はそれがおしずと気づき、「おしず!」と叫ぶ。ぴしゃりと窓を閉めるおしず。「下に降りて来てくれ」という竜二に、やがて下に降りて来て、竜二のそばに座るおしず。竜二は怒りに任せておしずを追い出した自分がいかにバカだったか、許してくれと涙ながらに訴える。そしてこれからはずっとお前を守るから信じてくれと懇願する。それに対して、おしずは自分が悪かったのだという。泣きながら抱き合う二人。女郎屋の主人(祐樹さん)とその手下たちが出て来て、おしずを引き離し中へ連れて行く。竜二は用意してきたまとまった金を主人に渡し、おしずを返してくれと頼むが、にべもなく断られる。挙げ句の果てにぶったり蹴られたりされる。

竜二は包丁をもって女郎屋に殴り込みをかけにきた鉄を捕まえ、おしずをつれて逃げてくれるように頼む。女郎屋の男たちがどこまでも追ってくるはずだから、できるだけ遠くに逃げるように、そして三度までおしずを裏切らないように良い含め、例の金を渡す。中から走り出て来たおしず、そのおしずを鉄に押しつけ、逃げるよう促す竜二。竜二が討ち死にする覚悟とみてとったおしずは行かないと言い張るが、自分はきっと後から行くからと言って、二人を無理にその場から離れさせる。そこへ店の主人とその手下が出て来て竜二と対峙する。竜二が以前に助けたまさは今はこの一家の用心棒をしている。まさ、竜二は互いに気づく。しかし今や長崎でヤクザ者になったまさは昔の義理など毛ほどにも気にしていない。後ろから短刀を竜二に突き立てる。鉄から奪い取っていた包丁で対抗する竜二。何度も刺されながら、主人とその手下すべてを殺す。女郎屋の外にあったベンチに座り込み、タバコを一服するが、やがて息絶える。

これでもか、これでもかという感じで情の迷路に踏み込むことを強いられます。でも女性はこういう筋立てに弱いんですよね。薄幸の女性にその女性をひたすら愛する男。ちょっとした行き違いが、この場合は男の嫉妬だったわけですが、二人を引き離す。再び女を探し求めた男はようやく愛しい女にめぐり逢うが、取り巻く事情がハッピーエンドを許さない。ここでメロドラマは大団円を迎えるわけです。深層心理的に解剖すれば(ラカン的にみるなら)この場合おしずは小文字の"a" ということになるのでしょうか。永遠に達成できない欲望の対象というわけです。たかしさんが見事だったのは、この脚本の構成が完璧だったことです。普段よりは幾分か長めの芝居の時間だったとはいえ、1時間20分ほどの間に前後の脈絡が完全にわかるような緻密なプロットを組み立てるというのは、他劇団でもあまり例がなかったように思います。せりふがちょっと重いという感じが(関西人の私には)あったのですが、それも計算に入れた上のことだったに違いありません。観客をみながら少しづつ変えておられるのではないでしょうか。