舞台に先立って斉藤信輔師の解説があった。ここでは銕仙会の『能楽事典』より概要をお借りする。半能なので後半部からになる。
前半
光源氏の正妻となった左大臣の娘・葵上は、最近物の怪に悩まされていた。物の怪の正体を知るべく院の臣下(ワキツレ)が照日の巫女(ツレ)に口寄せをさせていると、一人の女性(シテ)が現れる。彼女は、かつて葵上に辱めを受けた六条御息所の怨霊だと明かし、自らの抱える辛い思いを吐露しはじめる。そうする内、次第に感情の昂ぶっていった彼女は、葵上を責め苛むと、彼女を冥府へ連れ去ろうと言い出す。
後半
臣下は急いで横川の小聖(ワキ)を招き、怨霊退治の祈祷を始める。するとそこへ、鬼女の姿となった御息所の怨霊が現れ、なおも葵上を害しようとする。しかし鬼女は小聖の法力の前に力尽き、遂に成仏してゆくのだった。
能を見始めた頃に「教員対象ワークショップ」、味方團師のシテで『葵上』を見ているので、初心者向けということになるだろう。そのドラマチックな展開で魅せるこの作品は、能観劇が初めてでも、シテとワキとの対決に息をのみ魅了されるだろうから。
舞台に先立って斉藤信輔師の解説があった。ここでは銕仙会の『能楽事典』より概要をお借りする。半能なので後半部からになる。
前半
光源氏の正妻となった左大臣の娘・葵上は、最近物の怪に悩まされていた。物の怪の正体を知るべく院の臣下(ワキツレ)が照日の巫女(ツレ)に口寄せをさせていると、一人の女性(シテ)が現れる。彼女は、かつて葵上に辱めを受けた六条御息所の怨霊だと明かし、自らの抱える辛い思いを吐露しはじめる。そうする内、次第に感情の昂ぶっていった彼女は、葵上を責め苛むと、彼女を冥府へ連れ去ろうと言い出す。
後半
臣下は急いで横川の小聖(ワキ)を招き、怨霊退治の祈祷を始める。するとそこへ、鬼女の姿となった御息所の怨霊が現れ、なおも葵上を害しようとする。しかし鬼女は小聖の法力の前に力尽き、遂に成仏してゆくのだった。
演者一覧は以下。
シテ 六条御息所 大槻裕一
ワキ 横川の小聖 福王知登
笛 貞光智宣
小鼓 谷口達志
大鼓 山本哲也
太鼓 中田弘美
地謡 赤松禎友 上野雄三 浦田保親
斉藤信輔 水田雄唔 山田薫
後見 大槻文蔵 竹富康之
展開は以下である。
舞台前面の上に小袖が置かれている。これが病床に臥せっている葵上を表している。お囃子方の前には背を向けたワキが座している。ここから後半部。葵上が怖しい物の怪に苦しんでいると呼び出しを受けた横川の聖は、早速駆けつけたのだ。小袖の前までゆき怨念の強さに驚いた小聖、すぐに祈祷を始める。
揚げ幕が上がり、衣を頭から引き被った六条御息所が出てくる。客席に向かって少し衣をあげると、恐ろしい般若の面が。祈祷する聖の後ろに回り込んで、衣を揚げ、正面座位になる。気づいた聖が振り返って数珠を押しもみ、押しもみ、鬼女を調伏しようとする。
ここからはワキ=聖とシテ=六条御息所の鬼女との闘いになる。葵上を害しようとする鬼女、必死で調伏されまいと抵抗する。ここでのシテ・ワキのお二方、お若い。大槻裕一さんは22歳、福王知登さんもおそらく二十代後半から三十代前半。普通の舞台でシテ・ワキ双方がここまで若いことはあまりないように思う。
後半部のクライマックスが始まる。
どこまでも攻撃しようと小袖に迫る御息所とそれを阻止しようとする聖との対決場面。橋掛かりの奥まで追い詰められた鬼女は再び打ち杖を振りかざして舞台に戻ろうとする。シテ柱まできて、調伏する聖と対決。舞台に戻って、足をふんで呪詛の誇示。ここからは至近距離での対峙になる。打ち杖と数珠という小道具が生きている。
再び死闘の展開。が、やがて舞台に座り込み、両手を面にかざして屈服したかのような体勢となる。そしてまるで己の姿を嘆くかのような詠嘆、「「あら/\恐ろしの般若声や」がある。ここで地謡が「これまでぞ怨霊。この後復も来るまじ」とトドメを刺す。ここで怨霊は仏法の力によって浄化されたことが示される。
成仏を遂げた悪鬼、最後は地謡の「読誦の声 を聞く時は、悪鬼心を和らげ 忍辱慈悲の姿に て、菩薩もここに来現す。成仏得脱の身となり行 くぞ有難き/\」に送られて、静かに舞台、橋掛りを通って引き込む。
NHK等の能のDVD録画ではこの演者一同が退出する場面を録画していないことが多いけれど、ここでは全てを見せてくれる。
シテに続いて、ワキが、そして後見が小袖と打ち杖を片付ける。それからお囃子方が笛、小鼓、大鼓、太鼓方の順番で退場。それとほぼ並行して、地謡方が退場する。能の余韻の中でのこの退場の場が私はとても好きである。美しい。能の本質というべきものがここにあるように思う。