悪女は二人。一人は和也さんが演じた妾のお染で、もう一人は千代さんが演じた芸者お駒。二人とも悪い女なんです。大店の主人、金兵衛(祐馬)に、千両もの大金をもらいながら、彼が「死ぬ」と大喜び。火葬場では一応嘆き悲しむふりをする。お染は死体の入った桶に抱きつき、泣き喚く。一方のお駒、なぜか真っ赤な着物(襦袢)姿で現れ、汚い言葉で参列者を罵る。特に金兵衛の女房(勘太郎)を。これ、抱腹絶倒のおかしさ。
邪魔者がいなくなって清々と、それぞれの妾はそれまで金兵衛には内緒にしていた愛人と暮らし始める。
元は大佛次郎原作の新歌舞伎狂言。これは歌舞伎でみて記事にしている。リンクしておく。歌舞伎では普通に『たぬき』。
荒城版『たぬき】、歌舞伎よりずっとダイジェスト版になっていた。「生き返った」後の金兵衛(祐馬)を世話するのは歌舞伎では太鼓持ちの蝶作だけど、荒城版では火葬場案内人。この方、実は幽霊(真吾)。こちらのオチの方が原作よりおもしろい。実に情に脆く、金兵衛の妾探しに付き合ってやる。「無駄だよ」と諭しながら。
愛人二人にそれぞれ千両を渡し、「生き返った」後にはどちらかと楽しく暮らそうと計画を立てていた金兵衛、そのどちらにも裏切られる。(ここからは歌舞伎と違うところ)妻(勘太郎)が一番自分のことを愛してくれていたと分かり、心を入れ替えて商売に励むことにする。
そういえば、この12月の歌舞伎座には中車と児太郎の『たぬき』がかかる。この二人、『弥次喜多』でも夫婦がおかしかった。