毎日新聞に載った訃報。
言葉がない。まだ64歳でいらっしゃった。嘘であって欲しい。あまりにも早い。惜しい!肝臓がんだったという。そういえば何ヶ月か前の舞台では少し辛そうにしておられた。後ろについた後見の若い方も心配な表情をしておられたので、ずっと気になっていた。来月9日の「名古屋片山能」での九郎右衛門師シテ「野守」では大倉源次郎師と一緒に出演されるので、名古屋まで足を伸ばそうかと考えていたところだった。
6月にロンドンで能楽師の方々の演奏を聴いた折、六郎兵衛師のことをずっと想っていた。あの凛として、それでいて温かみのある演奏を。演奏には奏者の人柄が出る。その演奏のように、お人柄のすばらしい方だった。個人的なことで申し訳ないのだけれど、昨年の「談山能」の帰り、バス停にゆく途中で六郎兵衛師に行き当たった。大きなスーツケースを軽々と担いで急な山道を登ってゆかれた。近鉄の駅ででも、どこの誰ともわからない私に丁重に会釈され、恐縮してしまった。あの折の笑顔、素敵だった。
この3月に彼が脚本・演出された狂言風オペラ「フィガロの結婚」を見ておけば良かったと、残念、ただ無念。京都、大阪に来られるのは頻繁ではなかったので、演奏を聞く機会は貴重だった。あの力のある、それでいて美しい笛の音を二度と聞くことができないなんて、未だに信じられない。信じたくない。