yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

菊之助の新三が匂い立つ『梅雨小袖昔八丈』(髪結新三)@国立劇場3月19日

河竹黙阿弥作。五代目菊五郎が新三を演じたのが最初。だからキャッチフレーズ「江戸歌舞伎“四代にわたる芸の継承”」が効いてくる。

国立劇場サイトに掲載されている写真は以下。

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それにしても今までに見てきた新三の中で、もっとも姿形の良い新三だった。悪党なんだけど、この美貌ゆえにあまり憎たらしくない。菊之助の父、菊五郎が演じたのを見たのは、彼が太り始めた頃だったので、いかにも憎々しく見えた。菊五郎に比べると菊之助の新三は品がいい。「行儀」もはるかに良い。脚も長く、全体的にほっそりと見えるので、仁左衛門の若い頃のよう。色悪を演じるのにうってつけの外見。とはいえ、新三は色悪ではない。どちらかというと下層階級の下卑たところを出さなくてはならない。菊之助は悪口雑言を吐くところでも、どこか上品。物足らないって思う方もいるかもしれないけど、私は「麗しい!」って、心の裡でつぶやきながら見ていた。菊五郎も「半七捕物帳」では麗しかったんですけどね。

菊之助が初役で挑む新三はその美貌とかっこよさできっと「一世風靡」すると信じている。客が歌舞伎座の方に流れている?のはかなり残念。これを見逃す手はない。昔「綺麗だった」人ではなく、今綺麗な人を見て欲しい。

数回見ている菊五郎の新三は、登場したところから、下品な言葉と振る舞いで、どこか滑稽味があった。それは十八世勘三郎にもいえた。勘三郎は1997年松竹座のものと2005年歌舞伎座のものを見ているが、こちらはさらにおかしみというか愛嬌があった。悪い奴なんですけどね。いずれもはまり役だった。

菊之助はお熊を演じてはいるが新三は初めて。立ち役への挑戦でもある。かなり緊張しているのが伝わってきた。なんと真面目なそして真摯な!精進を怠りアメブロで金儲けをしている傲岸な同い歳のナンチャッテ役者とは月とスッポン。菊之助の謙虚さに打たれる。この芸への謙虚さがあるから、彼が頂点を目指す役者になると信じて疑わない。菊之助にご興味のある方は、長谷部浩氏著『菊之助の礼儀』をぜひご一読あれ。長谷部氏には『菊五郎の色気』という著書もある。

国立劇場の歌舞伎を贔屓にしているのは、通し狂言が多いことと復活狂言に挑戦するところ。これらを確かなものにするための文芸部をはじめとするスタッフが充実しているのも、強み。「歌舞伎を見た!」という感がたっぷりとある。

それでは国立劇場のサイトから配役、みどころ、あらすじを。

<配役>
髪結新三 = 尾上菊之助(5代目)
白子屋手代忠七 = 中村梅枝(4代目)
下剃勝奴 = 中村萬太郎(初代)
家主女房おかく = 市村橘太郎
家主長兵衛 = 片岡亀蔵(4代目)
加賀屋藤兵衛 = 河原崎権十郎(4代目)
白子屋後家お常 = 市村萬次郎(2代目)
弥太五郎源七 = 市川團蔵(9代目)


<みどころ>
粋でいなせな江戸の小悪党と
個性豊かな人物たちが織りなす世話物の名作
江戸歌舞伎における生世話(きぜわ)の芸を確立させた明治の名優・五代目尾上菊五郎のために河竹黙阿弥が書き下ろした『梅雨小袖昔八丈』。江戸町奉行・大岡忠相(おおおかただすけ)が裁判した事件を題材にした人情噺『白子屋政談(しろこやせいだん)』の脚色で、髪結新三を主人公に据え、材木問屋の娘・お熊(くま)と恋仲の手代・忠七(ちゅうしち)を利用して一儲けしようと画策する様子を描いています。
明治6年(1873)6月中村座の初演で五代目菊五郎が髪結新三を演じ、江戸前のすっきりとした芸風と写実の演技で当たり役としました。さらに六代目尾上菊五郎が練り上げて持ち役とし、当代の尾上菊五郎も継承しました。
今回、五代目以来受け継がれてきた新三に、菊五郎の監修の下、尾上菊之助が初役で挑みます。

<あらすじ>
新三のいなせな風情と江戸の情緒
髪結新三は、材木問屋白子屋(しろこや)の娘・お熊に婿入りの話があることを聞きつけ、お熊と恋仲の手代・忠七に駆け落ちを唆します。新三は忠七を利用してお熊を誘拐し、身代金を得ようと企んでいました。お熊を長屋の押し入れに閉じ込めた新三は、白子屋の依頼でお熊の身柄を引き取りに来た俠客・弥太五郎源七(やたごろうげんしち)の談判をはねつけますが……。
主人公の新三は廻り(出張専門)の髪結い。「白子屋」では、手代の忠七の髪を撫で付け、鮮やかな手さばきを見せます。「永代橋(えいたいばし)」では、悪の本性を顕して忠七を打ち据えると、傘に因む言葉が織り込まれた“傘尽くし”の啖呵を切ります。黙阿弥作品ならではの七五調による名台詞は小気味良く、聞きどころです。「新三内(しんざうち)」では、初鰹に大金を払って気風の良さを見せるとともに、白子屋の娘お熊を引き取りに来た名うての親分・弥太五郎源七を威勢よくやり込めます。悪の凄みを見せる一方で、老獪な家主・長兵衛(ちょうべえ)には歯が立たないという一面も面白く描かれています。
作品を通じて、江戸の市井の風俗が写実的に描写されている中で、粋でいなせな新三が様々な表情を見せ、その魅力的な人物像が際立ちます。

菊五郎にしても勘三郎にしても、目に焼き付いた場面は「手代の忠七の髪を撫で付け、鮮やかな手さばきを見せる」ところ。ここに新三の器用さ、いきさが出てくるわけで、悪党の美学というものがあるとしたら、ここをおいてはない。また流麗な七五調の台詞回しは黙阿弥作品ならではのもの。聴いていると鳥肌が立ってくる。菊之助はまだいっぱいっていう感が少ししたけれど、日に日に腕をあげているに違いない。次に演じる時も必ずや見に行く。なんどもいうけれど、こんな美しい新三は今までもこれからも出ないと思うから。それが確かな演技に加えてサポート陣に恵まれているのだから、これ以上は望めない。

恵まれているといえば、脇にもそれがいえる。家主女房おかく を市村橘太郎、家主長兵衛 を 片岡亀蔵なんていうの、これ以上ない布陣。手代忠七 を演じた中村梅枝は珍しく立ち。そういえば『文七元結』(2015年10月歌舞伎座)ででも文七役だった。この手代忠七もへなちょこの優男を力演。下剃勝奴役を演じた弟の萬太郎もニンにぴったりだった。そして、観客がもっとも湧いたのは菊之助長男の和史ちゃんの登場。声もよく通り、台詞回しもきいていた。