若手役者によるラインダンスで幕が開いた!冒頭部から興奮してしまった。あまり期待していたわけではないので(スミマセン)、嬉しい驚き。ホント、驚きに満ちていた。
「実験演劇」としての歌舞伎
もっとも歌舞伎は、こういう驚かせる趣向満載で、「古典でござい!」と、お高くとまっているのではなく、いろいろ冒険を試みるものだったはず。その意味では先祖還りといえるかもしれない。しかも、菊五郎劇団の面々、今までのどの狂言のときより、ずっと生き生きしているように見えた。弾けていた。歌舞伎座の「吉田屋」の幸四郎といい、この国立の舞台といい、新春公演で「弾ける」役者を見るのは、歌舞伎の新たなる未来を見るようで、嬉しさの極みである。役者の平均年齢も(和史くん、眞秀君のおかげもあり)、ぐっと若返っていた。以下にチラシの表と裏を。
その「荒唐無稽」は菊五郎が仕切る歌舞伎の先祖還り
枠組みになるのは「御家騒動」の世界。そこに、よく知られたモチーフの『義経千本桜』の「河連法眼館」の場、それに同じく狐の出てくる『葛の葉』、さらには『播州皿屋敷』、「寺子屋」などの(他にもあったはず)アリュージョンが見られる。まさに歌舞伎ならではの「なんでもあり」状態。この「ごった煮」を、国立劇場文芸部が整理、つじつまが合うように補綴したものが、今回の狂言。ただ、ハイライト部をつないで、末梢を省いているので、わかりづらいところもあった。場ごとにハイライト(の見せ場)を重点的に見せることで、「細かいことは気にしない」という姿勢を貫いたのは、あっぱれ。逆に歌舞伎の荒唐無稽さが際立ち、国立劇場的(?)アカデミック色が薄まったかもしれない。これも先祖還りかも。
菊五郎が復活狂言に並々ならない思い入れを抱いていることが分かった。彼のセンスが斬新なこと、お笑いセンスに秀でていること、そして何より新しい試みに寛容な座頭であることも知った。
菊之助・梅枝・右近の連携プレー
いくつか(私にとって)印象的だった場面があったけれど、その中でも唸らされたのが姫路城天守の場での所作事。菊之助(立ち)と梅枝(女方)での連れ舞いで、菊之助の振り付けだという。それぞれの所作が美しく、また揃っていて、惚れ惚れした。二人の踊りの名手としての実力が窺えたと同時に、並々ならない稽古量も推し量れた。
梅枝は女方と立ちとを演じ分けるのだけれど、それが見事だった。菊之助が立ち・女方を両方演じるのと共振していて、菊五郎劇団が最強だと納得させられた。そこに女方の尾上右近が加わるので、最強がより強くなって、最最強。右近も『ワンピース』では立ちを演じているから、菊之助、梅枝に次ぐ女方・立ち役者になるに違いない。そしてこの梅枝(立ち)と右近(女方)コンビの「イチャイチャ」ぶりは、昨年11月に見た『お江戸みやげ』を彷彿させるものだった。思わずニンマリしてしまった。とくに、右近がデレデレと梅枝に絡む場面は、おかしさ、かわいさ、最高だった。
歌舞伎の「堆積」を楽しむ
印象に残った三つ目は、やはり狐たち。与九郎狐(松緑)と小女郎狐(菊之助)。二人とも『義経千本桜』の狐と同じ白の装束。頭も同じ形。だから彼らが狐の扮装で登場すれば、観客は厭でも『義経千本桜』の忠義篤い源九郎狐を連想する。これで、芝居に幅と厚みが出る仕掛けになっている。歌舞伎が西洋の演劇と決定的に違うのがここにあると思う。題材も、内容も、そして役者すらも、累々と積み重なってきた歌舞伎の堆積の上に乗っているのである。見ている側もそれを期待し、また楽しむのである。
以下に国立劇場のサイトから拝借した内容と配役一覧をアップさせていただく。
並木五瓶=作 『袖簿播州廻』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴五幕九場
序 幕 曽根天満宮境内の場
二幕目 姫路城内奥殿の場
同 城外濠端の場
三幕目 姫路城天守の場
四幕目 舞子の浜の場
大蔵谷平作住居の場
尾上神社鐘楼の場
大 詰 印南邸奥座敷の場
播磨潟浜辺の場(主な配役)
印南内膳 尾上 菊 五 郎
生田兵庫之助/碪の前 中村 時蔵
古佐壁主水/百姓平作実ハ与九郎狐/加古川三平 尾上 松緑
弓矢太郎実ハ多治見純太郎/主水女房お辰/小女郎狐 尾上 菊之助
印南大蔵/奴灘平 坂東 彦三郎
久住新平 坂東 亀蔵
桃井陸次郎/桃井八重菊丸 中村 梅枝
高岡源吾 中村 萬太郎
庄屋倅杢兵衛 市村 竹松
傾城尾上 尾上 右近
平作倅平吉実ハ桃井国松 寺嶋 和史
福寿狐 寺嶋 眞秀
金子屋才兵衛/早川伴蔵 市村 橘太郎
飾磨大学 片岡 亀蔵
牛窓十内 河原崎権十郎
中老淡路 市村 萬次郎
近藤平次兵衛 市川 團蔵
桃井修理太夫 坂東 楽善
ほか
感激のあまり翌日のチケット確保
最初の幕間で、一度見ただけでは把握できないと考えて、明日の公演のチケットを取ってしまった。今日は一階席(花道の左)だったけれど、明日は三階席。合わせても歌舞伎座の最安席とほぼ同じ値段。(手厚く国の援助があるのが)ありがたい。