yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

天が降臨——羽生結弦選手が「SEIMEI」でオリンピック二冠!

NHKのSP実況解説で「異次元の強さ」という素敵な句で表現された羽生結弦選手の演技、それはそのままこのフリーでの演技にもいえる。もう一つ付け足したい。「異次元の美」を。

神がかり的強さと美しさと。羽生結弦選手をおいて、この二つをフィギュアスケーティングというスポーツで具現化できる者はいない。彼が特別な存在である所以。彼が今、ここで演技する意味もそこにあると信じている。場所も時も選ぶ必要はない。どこにいても天は降臨する。

それにしても彼が与えられた試練の苛烈だったこと。英雄譚に登場する英雄のように。以前に彼がExhibitionで「白鳥」を舞ったとき、白鳥になって天高く舞い上がっていったヤマトタケル(倭建命)のようだと書いたことがある。悲劇の英雄は悲劇的な運命を負っているからこそ、人の心を打つ。でも羽生結弦選手は悲劇を素晴らしい復活劇に変え、人を感動させた。より深く。より強く。

以前に気づかなかった「発見」がいくつもあった。使用曲「SEIMEI」は、梅枝茂氏作曲の『陰陽師I』、『陰陽師II』のオリジナルサウンドトラックから章を抜粋、構成したもの。7章から成る。

「陰陽師Ⅰメインテーマ」(1)
「荒ぶる神」(2) 
「日美子と須佐」(2) 
「一行の賦」(2) 
「日美子残影」(2) 
「五芒星」(1) 
「陰陽師Ⅱメインテーマ」(2)

なんと「荒ぶる神」が入っていた!ここでreferされているのは(リストにあるように)姉の卑弥呼と対立、出雲に流された須佐之男命。『古事記』では倭建命に並ぶ悲劇の英雄。この荒ぶる神を鎮めるのが陰陽師安倍晴明という設定なのだろう。神として祀られ鎮められた須佐之男命。でもときとして荒ぶる。荒ぶる神が登場するところでは、ドラムが効いた音楽になっている。女性の日美子(卑弥呼)が絡むところでは、チェロの演奏。緩急と強弱に富んだ構成。もっといえば陰陽の思想が支配している構成。

羽生結弦選手、あるときは須佐のごとく激しく、あるときは日美子のように優雅に(イナバウアーが使われていた)舞う。アグレッシブに、次にはなだめるかのように。全体を治めるのはメインテーマ、つまり晴明。最初と最後を決め(鎮め)ポーズで納めた羽生結弦選手。陰陽師になりきっていた。

『陰陽師』に使われた楽器は西洋楽器ではあるけれど、能楽のお囃子を思わせるところが多々あった。ドラム部は大鼓、小鼓、そして太鼓だし、笛部はまさに能管。それらの間をメロディが縫ってゆく。羽生結弦選手のスケーティングとジャンプはこの呼吸と完全にシンクロしていた。

シンクロといえば、私の中で能「高砂」の詞章がシンクロしていた。晴明になりきった羽生結弦選手。「神と君との道直ぐに 都の春に行くべくは それぞ還城楽の舞 さて万歳の小忌衣 さす腕には悪魔を払ひ 納むる手には、寿福を抱き」というところ。

悪魔を祓い、寿福を抱いて還城楽の舞を舞った羽生結弦選手。彼の舞いを見ることのできた私たちは「撫でられ」(慰撫され)、「命を延ぶ」(「高砂」詞章)ことができるという幸運が与えられた。