外務省、京都府、それに仏大使館協賛のこの公演、とにかく能の舞台にいたるまでの前段が長かった。駐日仏大使、京都府副知事、それに京都市長と延々と続く挨拶。うんざりした。特に副知事は「クローデル」の名も覚えていない様子。呆れた。加えて市長の無駄に長い挨拶にもうんざり。薪能のときにもうんざりしたけど、今回はそれ以上に長かった!「必要悪」なら、できるだけ短く、時間を切って欲しい。ほとんど無意味だから。観客は観劇料を払って彼らの挨拶を聴きに来ているわけではない。
始まる前に青山学院大学名誉教授の中條忍さんの解説は包括的で役立った。こちらはもっと長くてもよかったほど。これでその前のくだらない時間つぶしの挨拶へのイライラが多少はおさまった。
以下にアンスティチュ・フランセ公式サイトからの紹介文をアップする。
アンスティチュ ・フランセ関西の創設を提唱したポール・クローデル (1868-1955)は、20 世紀フランスを代表する劇詩人にして外交官。 駐日フランス大使(1921-1927)として在日中、能、歌舞伎、文楽を愛し、画家や詩人と親交を結び、日本から着想を得た多くの作品を残していま す。その一つが『女と影』です。
アンスティチュ・フランセ関西の創立90周年を記念し、金剛流宗家による 『女と影』を翻案した創作能『面影』を上演します。原作は1923年、五代 目中村福助によって帝国劇場で初演されました。武士、先妻の亡霊、後妻を登場させ、彼らの闇に交差する内面のこだまを形象化した作品です。クローデルが「私の能」と呼ぶ作品をぜひご観劇下さい。
さらに京都市のサイトからも解説をアップする。
ポール・クローデルは,劇作家であると同時に,詩人大使として知られた駐日フランス大使(1921-1927)である。クローデルは,1924年に仏人研究者のための施設として東京に日仏会館を設立した後,1927年,フランス政府が日本で初めて運営するフランス語・フランス文化センターとして関西日仏学館(現 アンスティチュ・フランセ関西)の創設にも大きく尽力した。
能,文楽,歌舞伎を愛したクローデルは,在日中も盛んに創作活動を行い,謡曲風の戯曲「女と影」は,歌舞伎役者五代目中村福助によって帝国劇場で上演された。2015年,「女と影」の翻訳が見つかったことをきっかけに,クローデルが設立を提唱したアンスティチュ・フランセ関西の創立90周年を記念する公演として,金剛流宗家による上演が企画された。
アンスティチュ・フランセ関西創立90周年であるとともに,京都・パリ友情盟約締結60周年を来年に控える記念すべき年に,日仏両国の文化の出会いを象徴するクローデルの作品を,詩人大使が愛した京都で上演し,二国間の友好を祝うこととなった。
この舞台の関係者、演者一覧は以下。
監修 金剛永謹
囃子監修 大倉源次郎
詞章監修 冷泉貴実子、有松遼一語り部 茂山逸平
シテ 金剛永謹
ツレ 金剛龍謹
ワキ 福王和幸小鼓 大倉源次郎
大鼓 河村大
笛 杉市和後見 廣田幸稔 豊嶋幸洋 今井克紀
地謡 惣明貞助 宇高徳成 宇高竜成 山田伊純
重本昌也 種田道一 宇高通成 豊嶋晃嗣
新作能とはいえ、古典の形態をそのまま残しての舞台。シンプルには多少なっているけれど、ほぼ「普通の」能といってもいい。「新作能」として『冥府行』や『鷹姫』をつい先だって見た当方としては、いささか拍子抜けした。あの二つの新作能に見られたデコンストラクションは、そしてその結果としての異化効果はまったく見られなかった。だから「新作」というのは、ただ単にクローデルの「女と影」を能に当てはめただけのもの。もともとフランス語で書かれたのを翻訳したものを、何とか無理のない能仕立てにしただけ。無理、齟齬をどう演劇化するのか、能的な構成を保ちつつ、どう異化作用を引き出すのか。観客にそれをどうアピールしてゆくのか。この辺りの工夫がなかった。失望。極めて保守的な舞台。良かったのは大倉源次郎さんの小鼓。いつ聞いても素晴らしい。また、大鼓も力強くて良かった。笛の杉市和さん、先日の「杉会」で聞いたよりずっと勢いがあって、さすがだった。
せっかくなので、チラシの写真をアップする。