yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

松岡正剛の千夜千冊ーー里中満智子 『女帝の手記』

松岡正剛さんの守備範囲の広さにあらためて感服した。2006年4月13日の記事である。私たちは正剛さんを読書案内人にもったことの幸運に感謝すべきだろう。毎日一冊のペースで緻密な分析を施したレビューを書くなんていうことは、普通の人間には到底不可能である。その不可能を実現してみせた正剛さんは、とてつもない知識と見識とそしてパッションの人である。

里中満智子さんへのビジネス誌のインタビュー記事をゼミで使った折に、検索をかけたら正剛さんのこの記事に行き当たった。里中満智子さんは「マンガ家」としてしか認識していなかったので、インタビューの内容といい、この正剛さんの記事といい、あらためて彼女の知見の確かさ、深さに驚かされた。また、正剛さんのアンテナのはり方、鋭い分析にも驚かされた。

里中満智子さんは聖武天皇と光明皇后との娘、阿倍内親王が孝謙=称徳天皇になったいきさつ、またその政治的背景をマンガにしているのであるが、正剛さんはそれを今の天皇家での跡継ぎ問題と絡めて評している。里中満智子さんが描いたのは、孝謙=称徳天皇の熾烈な政争皇位継承問題のみならず、孝謙=称徳天皇の「天皇」という地位に封じ込められてしまった女性としての「怨念」のようなものではないかと、正剛さんは推測する。これはたしかに重い問題である。だいたいが私たちは天皇家の人たちを私たちとおなじような人間としてはみないだろう。孝謙=称徳天皇の女性であるがゆえの葛藤なんておそらく想像だにしないに違いない。そこにしっかりとメスを入れた里中満智子さんを、正剛さんは高く評価する。

私はむしろ正剛さんの「フェミニスト」ぶりに驚かされた。私の知る限り、男の批評家たちはそういう視点をとらないから。その意味でも正剛さんがただ者ではないと思わされた。