yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

橋本正樹著『あっぱれ旅役者列伝』

大衆演劇の月刊誌。『演劇グラフ』への連載を本にしたものである。

以下にアマゾンのサイトをはっておく。

あっぱれ!旅役者列伝

あっぱれ!旅役者列伝

橋本さんの本は『旅姿男の花道』(白水社)を以前につれあいから借りて読んだ。橋本さんが「旅芝居」と呼んでいるのは大衆演劇のことである。大衆演劇、あるいは旅芝居は資料がほとんどなくて、このジャンルの演劇についてなにか書こうとすると困ってしまう。それは旅芝居ならずとも観客を前にして演じてはじめて成立する、そして舞台がはねれば「完結する」演劇一般にいえることかもしれないが、それにしてもほとんどないのが不思議だった。服部幸雄さんがいわゆる地芝居について調べた際にも同じ問題に直面していた。だから、橋本さんの本は大衆演劇の歴史と現状を知る上できわめて貴重である。彼は現在『演劇グラフ』に『あっぱれ役者街道』を連載中で、こちらは現在も現役で活躍している座長、元座長のルポになっていて、とても参考になる。毎回楽しみにしている。

橋本さんの本以外では向井爽也さんの『日本の大衆演劇』(東峰出版、昭和37年)と九州演劇協会、片岡長次郎編の『旅役者座長銘々大全集』(上山書房、昭和57年)を以前に古書店で入手した。これらの本は出版からすでに数十年経過しているが、資料としては非常に貴重である。去年の夏にこの古書を手にいれたのだが、その折にあの『武智歌舞伎全集』を出している三一書房の『大衆芸能資料集成』の中の『大衆演劇編 I、II』もネットで買ったのだが、中身をみてがっかりした。私が知っている大衆演劇ではなく、大衆芸能についての論考ばかりだったから。

私が大衆演劇を見始めたのが2009年2月で『演劇グラフ』を読み始めたのも同時期なので、今回の『あっぱれ旅役者列伝』の中には初めて読むものもある。それに耳にしたことのない役者たちも多い。この本の中に登場する17人の座長たちの中で現在でも舞台に立っているのは樋口二郎、沢竜二、若葉しげる、姫川竜之介、市川恵子、玄海竜二、そして大日向満だけであり、その他の役者(座長)はすでに引退したり、場合によっては鬼籍に入っている。

何十年もの間、実際に劇団が旅をかけている場に足を運び、時には劇団に寝泊まりしながら集めた貴重なルポである。そして何よりも、座長たちから橋本さんが引き出した話からザ・ヤクシャの実際の姿がいきいきと立ち上がってくるところ、感動的である。

また、巻末に「総集編」として付してある九州、関東、関西それぞれの地域の大衆演劇の特徴、歴史、興行形態などについてのまとめも、橋本さん個人の生の声のようなものが聴けて、興味深かった。

大衆のものでありつづけた大衆演劇、旅芝居が日本の芸能史の中に組み込まれていないというのは、どう考えても変である。過去・現在と大衆が支持してきた演劇文化であり、これからもそれにかわりはないと思う。直近では昭和40年代の厳しい冬の時代を耐え抜いてきた演劇だから、大衆がなくならない限り、坂口安吾ではないけれど「文化」として死に絶えることはありえない。