Twitterでフォローしている佐々木俊尚さんからの情報で、『アンチクライスト』が公開されたことを知った。
去年3月、ザルツブルグでの国際学会で、同じセクションで発表したオックスフォード大学の博士課程在籍中だったドイツ人学生がこれをポストモダン理論で論じたので、強く印象に残っていた。
「悪」をテーマにした学会だったのだけれど、発表者は多岐の分野に広がっていて、私とはdisciplineの違う人が多かったが、彼女はバリバリの理論派で、とてもおもしろい発表内容だった。親衛隊(?)の同級生とおぼしき学生も多く応援に来ていて、質疑応答がとても活気のあるものだった。ちなみに私は『切られお富』論で発表した。
彼女が映画の一部を見せてくれた。会場では半分が観ていたがあとが未見で、30分ばかりの映写のあと、みんなが無言になってしまった。衝撃的な内容だった。「悪」というより、「罪」の問題、罪悪感の問題を扱っているように思った。
そのとき質問が集中したのが、音の使い方だった。最初の夫婦の性行為を長々と映した映像でも、その後の息子を亡くした夫婦それぞれの苦しみを映し出す映像でも、すべてが黙示録を思わせる重苦く厳かな、それでいてどこか清らかな静謐を、音楽が裏打ちしていた。
監督についても言及があったが、こういうものを創りだすとは、なにか精神的問題、苦悩を抱えている人であることはすぐに分かった。会場からは監督がアンチクライストならぬ、アンチフェミニストであることにも質問が出ていた。またタイトルからも分かるように、宗教問題についても鋭い指摘があった。
ぜひ全編を観たいと思っていたら、最近公開されたということで、大阪ではテアトル梅田で3月5日から公開だそうである。これが一般受けするとは思えないし、とくに日本ではこういう「罪」意識とは宗教的にもなじめないだろうからすぐに終わってしまうのではないか。早く行かなくてはならない。でもプラハの発表の準備もあることだし、悩ましい。観るのは夏の京都での公開まで待つかもしれない。