ゼミでは「アニメ」をテーマにしている。
2クラスあって、一つは昨日が最終日だった。このクラスでは劇場版『攻殻機動隊』と映画『マトリックス』との比較をするというのが先週の課題で、一人優れた論評を書いた学生がいたので、それをみんなで評した。
もう一クラスは今日が最終日。昨日のクラスのようにみんなで評し合えるだけのアサインメントが出なかったので、アニメビジネスについてネットで調べて、その斜陽の原因と打開策を考えるというのを課題にした。その前に学生の一人がみんなで観たいと持ってきたアニメ、『マクロス7』を20分程度みた。学生たちは18、19歳なので、リアルタイムでは観ていないという。画像と雰囲気が今敏監督の『パーフェクトブルー』に酷似していたので、成立年を調べたところ、1994から95年にかけてだった。『パーフェクトブルー』が1997年なので、納得した。
その時Wikipediaで調べて、今監督が去年8月に亡くなられたことを知った。ショックだった。新しい企画も進行中だったそうである。彼は余命いくばくもない膵臓癌と告知されてから(なんと死の3ヶ月前)、自身のブログ
に闘病の様子をNotebookとして記している。「さよなら
」という項は感動的である。壮絶な死であると同時に穏やかな死でもあった。
アニメに関心がなかった私が、アニメをテーマにしたゼミをもったり、論文を書いたり、国際学会で発表するきっかけを作ったのが、アメリカの出身大学(UPenn)で指導教授だった先生の映画論クラスのお手伝いをしたことだった。このときの映画のリストに今監督の『千年女優』が入っていた。クラスでTAをしていた美術専攻の大学院の女子学生がこの作品に興味を持って、私にいろいろと聞いてきた。それで今監督作品をいくつか観ることになったのである。
その中でもっとも面白かったのが『パーフェクトブルー』で、サイコドラマとしての完成度の高さに驚嘆した。アニメでこれだけのことができる、いやアニメでしかできないことがあると、気づいた。特に出色だったのは、主人公未麻をマネージャーのルミが追いかけるシーンである。これはアニメという手法によって初めて可能になった映像であり、その気味の悪さは人物を使った実写版ではうまく出せないだろう。
感動をそのままに、「『パーフェクトブル』における視線と視る快楽:ファンタジーの形成」というタイトルの論文を書いた。
帰国した翌年に留学生のクラスでこの作品をみせたら、アメリカ人学生では男子が、フィンランド、ドイツの学生では女子学生がこれを面白いといっていた。『千年女優』、『パプリカ』は以前に見たことがあるとも言っていた。今敏は海外でも高い評価を受けているのだと、改めて認識したものである。寡作だけれど。
だから余計に残念で仕方がない。