大学では「留学準備講座」を教えている。
3週間前から、youtube 中のUCLAのレクチャーのいくつかを学生に選ばせている。最初は学生が自分の好みにあったレクチャーを聴くという形をとっていたが、前回から同じレクチャーを聴いている。
それが「現代文明、1750年から現代まで」である。講師はリン・ハント教授。この方、私がペンシルバニア大学に在学中に英文科の教授だった。直接お会いしたことはないけれど、すぐ近くの研究室に当時履修していたクラスの先生(この方も批評理論で有名なミッシェル・ラバテ教授)を尋ねた際に、部屋の名札をみて知った次第だ。とにかくフェミニスト関連では有名人だったので、名前は知っていた。とても優秀な人だという評判だった。
UCLAに移られたのは知らなかったので、ちょっと驚いたけれど、納得もした。というのも有名教授はここ十年くらい前から続々と東海岸から西海岸へ移っていると聞いていたので。冬に零下が普通の厳しい東海岸から、一年中温暖な西海岸へと拠点を移すのもよく分かる。とくに年をとってくると冬の寒さはこたえるだろうから。
ハント教授、専門は文学のはずなのに、この授業では「現代文明」という歴史の講義をもっていた。でも端々に文学的素養が垣間見える。たとえばジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』に言及したりするところなど。彼女、学生のほとんどが作品名を聞いたこともないと分かって、ショックを受けていた。たしかにUCLAレベルだったら、『闇の奥』くらい知っていて当然だと思う。やっぱりアメリカでも学生のレベルダウンが起きているのだろうか。
今日はそのレクチャー・シリーズの最終回、「第二次世界大戦」がトッピックだった。そこで驚いたのは、うちの大学の学生があまりにも近代史を知らないことだった。とくに当時の列強の植民地政策とその後始末、大戦の背景にあった政治的状況といったものをほとんど知らなかった。ちょっとショックだった。当時の状況と、大戦の後始末は日本のそれ以降の歴史とも深く関わっているから。
日本の高校レベルの歴史教育の貧困を想像してしまった。センシティブなトッピック――特に朝鮮半島、中国等の植民地絡み――は避けて通ってしまうのだろう。こういう国は世界広しといえど日本くらいである。そこにつけこむ国も多いのだから(日本人は救いがたいお人よし)、しっかりと歴史教育をしてもらわなければ困るのだけれど。
アメリカでは確固とした「歴史教育」が行われている。それは愛国教育でもある。「愛国」にアレルギー反応をおこす日本とは雲泥の差である。爪の垢でも煎じて欲しい。このレクチャーもある意味、その路線に繋がっているものだった。
自分の立つ位置をはっきり出来ないような人間を生産するなんて、アメリカでは考えられないのだ。