お芝居のタイトルは失念しました。
以前に「たつみ演劇box」でも観たことのあるものでしたが、大幅に内容が変えられていました。
内容は以下です。
侍の兄弟が父の仇を討ちに旅をかけるが、途中二人が行き別れになる。
兄の方は通りがかりに酔っ払いに絡まれて困っていた娘を助けたのが縁で、娘の父親が親分をしているやくざの一家に世話になることになる。離れ離れになっていた弟に、その一家で再会することになる。弟は行き倒れていたところを親分に助けられ。その一家の者になっていた。
半年ほど時が流れ、兄が助けた娘は姉娘で、彼女は兄に恋心を抱くようになる。一方、妹娘の方は弟と結ばれたいと願っている。
そこへ例の酔っ払い侍が出てきて、娘たちの父である一家の親分こそが二人の仇であると暴露する。兄が敵討ちをしようと親分のところへ乗り込むと、親分は潔く討たれようとする。しかしその前に喧嘩の仲裁に入って、二人の父親を誤って切ってしまったこと、一太刀しか浴びせていないと釈明する。しかし兄弟の父は実際は何太刀も浴びて死んでいた。二人が不審に思っていたところ、例の侍が手下を従えてやって来て喧嘩の当事者は自分だったこと、兄弟の父にとどめをさしたのが自分だったと白状する。そこで大立ち回りがあり、兄弟は見事に父の真の仇を討ち、親分を許し、そしてめでたく姉妹と結ばれる。
一番位下の子分役で出てこられたはるかさんが、さんざん笑いをとっておられました。本当は出番がなかったところを「たくさん来てくださったお客さまのため」無理に出番を作って?登場されたようで、彼女のせいで「悲劇」がお笑いになってしまうと、親分を演じられたおとうさまの龍治さんが嘆いておられました。侍兄弟の兄を演じた座長もたじたじで、笑いをこらえるのが精一杯っていう感じでしたが、なにか実際の関係とダブっているようで、それを観るのも一興?でした。こういうところが大衆演劇ならではの醍醐味なんでしょうね。はるかさん、藤山寛美さん(実際には観たことはないのですが)によく似ておられました。身体からにじみ出るその笑いのセンスが辺りを満たしてしまうので、彼女の登場が他の人を喰ってしまうところがあるかもしれません。でも私のような彼女のファンとしては大歓迎、大感激ですけれど。多分とてつもなく器の大きな方なのでしょう。こんな方は初めてです。藤山直美さんをも超えていると思いました。
ショーは随所に工夫が凝らされていました、特筆すべきはミニショーでの群舞でした。洋装で踊るというのは他劇団でもありますが、ここのは振り付けが一味違うのです。練習をものすごくされているのがわかる質の高さです。
グランドショーでの白眉は座長の両性具有的な舞踊でした。ポニーテールに髪飾り、中世の騎士のようなドレス、足はブーツといういでたちで「まるで宝塚!」って感じでした。これがいちばん私のツボにはまりました。独特のエロティシズム、それでいて隠微さ、堕落といったものを感じさせない、というよりそれとは真反対の極の知性といった一見矛盾する要素が、絶妙に結合した舞踊でした。こんなことを考えつくとは、この人只者ではないなと思い知りました。写真はありません。何日も前に予約したのに、席は床机席で、二本の柱にさえぎられて、タブローのように舞台が切り取られてしまうのです。
ショー最後は浪曲に乗せた『梅川忠兵衛』の「新口村」の段でした。座長の忠兵衛、鶫汀くんの梅川でした。これは歌舞伎だと義理の父と梅川の絡みで泣かせるのですが、そこはきわめてアッサリと演じておられました。その意味で逆に近松の原作(もとは浄瑠璃用に書かれたものですから)に近いと思いました。歌舞伎は情の絡みをネットリ、じっくりと演るので。そしてそれは近松原作とは似ても似つかないものになってしまっているので。
観客数が連日記録を更新しているのは間違いありません。予約席も確保するのが難しい状況です。でもそこは浪速クラブ、かならず座る席はお兄さんたちが見つけてくださいます。若くて熱い劇団、お客さんも待望していたのでしょう。