yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

新世代の新解釈のベートーベン−—「福間洸太朗 ベートーベンを弾く」in NHK BS「クラシック倶楽部」

演奏はすみだトリフォニーホール 小ホールにて2020年7月15日 採録されたもの。BS再放送。福間 洸太朗さんについての解説と曲目は以下。

20歳でクリーヴランド国際コンクールで日本人初の優勝を果たし注目を集める。ベルリンを拠点に、ソロ活動のほか国内外の著名なオーケストラとも多数共演。

 

「幻想曲 作品77」
「ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 作品78「テレーゼ」
「ロンド・ア・カプリッチョ 「なくした小銭への怒り」
「ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 作品57「熱情」 

ひところ仇のように聴きまくっていたピアノ曲。ここ20年ばかりはすっかりご無沙汰していた。近場の芸文センター、大阪のフェスティバルホール、ザ・シンフォニーホール等での海外演奏家のコンサートに年数回出かける程度。あえてCDを買っての視聴は皆無に近かった。テレビでの演奏録画もあまり効かなくなっていた。2020年に「関西クラッシック音楽情報」ブログがなくなってしまった(とても残念)ことも一因かもしれない。

たまに見る早朝のBSでのコンサートは楽しめたけれど、録画してまでは鑑賞していなかった。だから福間洸太朗さんのこの番組に出くわしたのは僥倖だった。いきなりの「テレーゼ」、聴き惚れた。軽やかに自在に鍵盤を駆け回る指。激しさから生まれる華やぎ。そこに優しい労わりの主テーマが入る。今までに聞いてきたベートーベンとは違う情趣が醸し出されていた。次の「なくした小銭への怒り」はコミックリリーフ的作品。それを経て、あのパッショネイトな「熱情」まで、あっという間に終わってしまった。

「熱情」は私にとってはバイブルのようなスヴァトスラフ・リヒテルの演奏が槍岳のように聳え立っているので、あまり比較したくはないのだけれど、福間さんの演奏はリヒテルのロシア的激情の対極にある感じがした。もっと穏やかで、どんなに激しい演奏でも静謐さが終始漂っている。これはきっと彼のキャラクターそのものなのだろう。

福間さんは将来を嘱望される若手ピアニストとのことで、その期待に十二分に応えているのが演奏から読み取れた。YouTubeに上がっている動画だけでもベートーベンからショパン、シューマンまでをレパートリに持っているのがわかる。いくつか聞いてみたけれど、その演奏に非常に「日本的」といっては語弊があるかもしれないけれど、独特の情趣を感じた。楽譜をしっかりと踏まえた上で、楽譜にプラスアルファする。それはなんというかどこか懐かしい感じのもの。そういえばリヒテルがベートーベンを弾くときも、ロシア的な情念を込めているんですよね。それはある意味演奏者の独自性としか言いようのないもの。観客・視聴者もそれを期待しているはずである。