yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

向田邦子原作『家族熱』テレビドラマ(TBS、1978)が圧巻である

さすが向田ワールド、昨今では見られない骨太のドラマが展開する。大体のあらすじはWikiで見ることができる。全部で14話になっているのだけれど、それぞれのエピソード内容は

www.paravi.jp

に載っている。

基本にあるのは向田邦子の終生のテーマであった「家族とは何か?」だろう。誰しも家族と呼べる人たちがいて、その関係の中で生まれ、育ち、そして旅立ってゆく。一般的には家族とは最後の砦というか、いつでも受け容れてくれる最終的な安住の場と考えられている。こういう「了解」が逆に個人を縛り付け、苦しめる場合もある。一旦その事実に気づいてしまうと、家族は息苦しい場所、時としてはそこに殴り込みをかけたい場所になるかもしれない。何でもって、どんな「絆」で家族は結びついているのか、それは愛情なのか憎悪なのか、それとも単なる惰性なのか。おそらくこういうことを普通は考えずに家族の中で日常を人は送っている。

この作品の登場人物も同様である。ところがあるきっかけで、家族とは何かという問いを自らに投げかけなくてはならない羽目に陥る。その疑問を持ってしまったが故にそれぞれが形こそ違え「家族の縛り」に苦しむことになる。それでも日常を家族に帰属しつつ生活を続ける。波乱の中でも家族であるということを受け入れつつ淡々と。そこに垣間見える深淵というか闇がとことん追求されることはない。なんせ、それが家族だから。でも、怖いんですよね、そこが。

Wikiからキャスト一覧をお借りする。

主人公。38歳。20歳で謙造の後妻となり13年黒沼家に仕えてきたが家族からの裏切りにより家出する。結婚前はゴルフ場で経理をしていた。

朋子の義理の息子。26歳。麻酔科医。実母恒子に愛憎相半ばする感情を抱き、朋子にほのかな想いを寄せる。

朋子の夫。55歳。ヒエダ建設 渉外部長。杉男と竜二の父。前妻恒子と離婚後すぐ朋子を見初め再婚。

謙造の前妻で杉男と竜二の実母。55歳。バー「ブーメラン」のママ 。離婚後大阪の料亭で働いていた。黒沼家に未練があり波乱を巻き起こす。

朋子の義理の息子。謙造の次男。3浪中。朋子に何かと辛くあたる。

謙造の父。73歳。隠居。妻とは死別。松子との再婚を望んでいる。

重光の交際相手。上品で生け花の心得あり。息子一家と団地に同居。

朋子の友人。雑誌の編集者。追突事故の加害者と交際中。

時子の交際相手。既婚者。謙造に自分のことを「ヒモ」だと説明。朋子にも魅力を感じている。

杉男とたまにデートをする仲。朋子に敵対心を持っている。

加藤治子のうまさに脱帽。その対立軸としての浅丘ルリ子の可愛らしさと、健気さにも脱帽。三國連太郎の怪優ぶりが、ドラマの深刻さにコミカルな点描を打ち込んでいるのにも感心。そしてなによりも三浦友和の清潔さと演技力に感動。百恵さんと結婚する前だったようだけれど、結婚によって役柄が限られてしまったのでは?予想外のうまさだった。もちろん志村喬と宝生あやこは予想通りのうまさで、裏切ることがない。あとの役者たちも手堅く、ジャリタレとはまったく違って格がある。

脚本は向田さん自身が手がけているのだけれど、演出にもかなり加わったのではないだろうか。というのも欧米映画を思わせるシーンが、もっというならフィルム・ノワールの手法——「映像面では照明のコントラストを強くしたシャープなモノクロ画面や、スタイリッシュな構図が作品の緊張感を強調するために多用される」(by Wiki)——が採り入れられていたように感じたから。カラーではあるものの、回想シーンではモノクロになるところや、わざとぼかしたカットの撮り方もフィルム・ノアールのもの。日常性の象徴であるかのような「家族」に非日常的映画、フィルム・ノワールを被せるなんて、さすが向田さん!彼女の編集者としての最初の仕事が『映画ストーリー』でのものだった。それも彼女の外国映画好きを見込んで抜擢された仕事だった。この辺りは彼女のエッセイ集、『向田邦子全集』に載っている。