15年前の『烏帽子折』
興味深かったのが「親子三代の競演」というキャッチフレーズ。同じタイトル、同じキャッチフレーズのものを見た記憶が甦ってきた。それもNHK が出しているDVD『烏帽子折』(録画2004年)で、ロンドン大学在外研究中に、大学の図書館(SOASライブラリー)で見たもの。この頃、滞在の初期だったにもかかわらず、かなりの「能ロス」に罹っていて、大学の「能楽コレクション(DVD)」にずいぶんと慰められたのだけれど、その中の一本だった。記事にしている。
今回の『烏帽子折』:解説・演者・特徴
解説
今回の公演、NHKサイトについた解説が以下。
古典芸能の選りすぐりの舞台をお楽しみいただく「古典芸能への招待」。今回は親子孫三代の共演による能狂言の名作。▽不思議な頭巾を手に入れた子供が愛らしいいたずらを繰り広げる狂言「居杭(いぐい)」。狂言大蔵流宗家の親子孫三代の共演▽牛若丸の活躍を描く立ち回りが見どころの能「烏帽子折(えぼしおり)」。シテ方観世流武田家の親子孫三代の共演。地謡に観世清和ほか。
演者一覧
烏帽子屋ノ亭主…武田志房
熊坂長範…武田友志
牛若丸…武田章志
烏帽子屋ノ妻…武田文志
熊坂ノ郎等…武田宗典、角幸二郎、清水義也、坂井音雅、野村昌司、佐川勝貴 関根祥丸、武田祥照、高梨万里
三條吉次…福王和幸
三條吉六…福王知登
早打…山本凜太郎
宿ノ亭主…山本泰太郎
火振…山本則孝、山本則重、山本則秀
笛…杉信太朗
小鼓…鵜澤洋太郎
大鼓…大倉慶乃助
太鼓…桜井均
後見…武田宗和、武田尚浩、上田公威、
地謡…観世清和、岡久広、浅見重好、松木千俊、坂口貴信、坂井音隆、(地謡)坂井音晴、井上裕之真
特徴
子方の安定感
この『烏帽子折』、まず子方に安定感があった。14歳という年齢からくる落ち着きもあったのだろうけれど、太刀を振り回す所作に無駄がなく、勇猛果敢さがしっかりと伝わってきた。これぞ牛若!という感じ。太刀を大きく振り上げ左手は開いた状態での決めポーズがとてもいい。
シテの所作の美しさ
子方のお父上、シテの熊坂役の武田友志師の所作が美しい。キレッキレという感じではなく、どちらかというと穏やかで落ち着いている。でも決め場所、例えば太刀を振り上げた牛若とにらみ合う場面は、挙げた手に表情がある。面に表情がある。動きにも若さがはっきりと出ていた。最後に牛若に討ち取られて、バタンと倒れるところなど、こちらの心配など杞憂という感じで、速やかに退場された。キレイな動きだった。
ワキの「郎等」たちの体を張っての演技
途中からだったので、郎等一人一人の個性を見極めることができずに、残念だった。関根祥丸さんはおそらく熊坂の前に牛若に打たれる郎等役?バタッと倒れるのも一番上手かったし、起き上がるさま、すっと立ち去るさまが美しかった。郎等一人一人が牛若と対峙、太刀を交えた上でドスンと後ろ向きに倒れるか、ドンと座り込むかなのだけれど、これって若い体でないと無理。若くても青あざができたり、背骨、膝を痛めたりなのではないかと、気が気ではない。2年前に見たDVDでの「親子三代:親—子−孫」とは、関根祥六さん(前シテ)、関根祥人さん、(後シテ)、関根祥丸(子方)だった。今回の武田家バージョンでは親子三代が、武田志房(ツレ)、武田友志(シテ)、武田章志(子方)となる。
DVD版で子方を演じられていたあの関根祥丸さんも「熊坂郎等」役の一人として演者に入っておられる。彼はお父様を録画の直後に、お祖父様を2010年に亡くされているので、安心した。
東京観世流の方々
そもそも東京まで能を観にゆくことを最近とくにしていないので、東京の能役者の方々の面々がお名前と一致しない。武田家が観世宗家の番頭格のお家ではないかとは、感じていたのだけれど。関根家もそうだったんでしょうね。
もちろん、宗家の清和師は度々京都で拝見している。また坂口貴信師もお顔をよく見ている。ワキの福王和幸、知登のご兄弟はしばしばこちらの舞台で拝見している。
笛:杉信太朗・大鼓:大倉慶乃助の最強コンビ
笛の杉信太朗師の素晴らしい強い音色も度々耳にする好運に恵まれている。好運といえば、大倉慶乃助師の大鼓を再び聴くことができたこと。今までに二度しか実際の舞台を聴いていない。一度目は塩津哲生師の社中会(2017年11月)、二度目は新作能『王昭君』(@たかいし市民文化会館、2019年1月)で、いずれも記事にしている。強く印象に残るすばらしい大鼓だった。叔父様の大倉源次郎師との競演だった『王昭君』を見れた(聴けた)のは、好運中の好運だった。