yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

幸四郎の歌舞伎リーダーとしての力量に圧倒される−−シネマ歌舞伎『月光露針路日本 風雲児たち』@なんばパークスシネマ10月2日

昨年6月の歌舞伎座公演は見逃しているので、それ以来いつか見たいと願ってきた。まさかこんなに早くシネマ版公開があるとは!とにかく早く見たくて、初日の昨日行ってきた。『歌舞伎風雲児たち』のWiki サイトに登場人物一覧が出ているので、お借りする。

役名

演者

役どころ

大黒屋光太夫

十代目松本幸四郎

本作の主人公、神昌丸の船頭(ふながしら)

庄蔵

四代目市川猿之助
(一人二役)

神昌丸の水主(かこ)、減らず口で不平不満が多い。

エカテリーナ2世

ロシア帝国女帝

新蔵

六代目片岡愛之助

神昌丸の水主、個人主義的で単独行動を好む。

三五郎

二代目松本白鷗
(一人二役)

神昌丸の船親司(ふなおやじ)[注 1]

ポチョムキン

エカテリーナに仕える公爵

小市

六代目市川男女蔵

神昌丸の水主、難破しかけた船の帆柱を切り落とした際に頭を打ち、言動が正常でない。

九右衛門

坂東彌十郎

神昌丸の水主、長身で、船の最長老

磯吉

八代目市川染五郎

神昌丸の見習い水主、三五郎の一人息子

キリル・ラックスマン

八嶋智人
(一人二役)

フィンランド出身の博物学者。光太夫の帰国実現のため奔走した。

アダム・ラックスマン

キリルの息子。光太夫一行の帰国の途に際し随行して来日する。

マリアンナ

坂東新悟

イルクーツク滞在中に新蔵と恋仲になる現地の娘

清七

三代目澤村宗之助
(一人二役)

神昌丸の水主、船の者たちの健康管理を任される

ヴィクトーリャ

ピリュチュコフの娘でアグリッピーナの妹

藤蔵

二代目中村鶴松

神昌丸の見習い水主、磯吉と同じ年の頃だがしっかり者

藤助

三代目大谷廣太郎

神昌丸の水主、船の構造に詳しい

与惣松

初代中村種之助

神昌丸の水主、船の炊事役

幾八

四代目片岡松之助

神昌丸の水主、酷い船酔いで瀕死

勘太郎

市川弘太郎

神昌丸の水主、食いしん坊

長次郎

二代目松本幸蔵

神昌丸の水主、博識で頼られている

安五郎

二代目片岡千次郎
(一人二役)

神昌丸の水主、陽気でみんなの盛り上げ役

ピリュチュコフ

ヤクーツクで光太夫一行に随行しロシア語を教える。

作次郎

初代片岡松十郎

神昌丸に乗り込む上乗り(紀州藩回米管理)

次郎兵衛

三代目松本錦吾

船表賄方(船のまとめ役)

アレクサンドル・ベズボロドコ

二代目市川寿猿

エカテリーナの秘書官

ソフィア・イワーノヴナ

五代目坂東竹三郎

宮中に仕える高齢の女官

アグリッピーナ

十一代目市川高麗蔵

ピリュチュコフの娘。ヤクーツクで磯吉と惹かれ合う。

教授風の男

二代目尾上松也

物語の語り手を務める

 

高麗屋が三代(白鸚、幸四郎、染五郎)出ているのは当然として、力のあるそれもちょっと癖のあるベテラン(彌十郎、男女蔵、宗之助、高麗蔵、千次郎、錦吾)と実力派の若手(鶴松、弘太郎、廣太郎、種之助、新悟)が勢揃いした布陣になっている。それを外堀からしっかりと支えるのは猿之助、愛之助という実力・人気共にトップを行く役者。さらにはコメディ色の仕上げとしてお馴染みの寿猿、竹三郎が加われば盤石。松也がチラチラと出てくる語り手というのもおかしい。八嶋智人がオチ場面で登場するのもニクイ。

配役にかなりの工夫が見られた。歌舞伎というより現代劇なので、現代劇でも「通用する」大写しに耐えうる役者が揃っていた。顔の演技が<歌舞伎調+映像仕様>が可能な役者でなくては、この芝居に通底する風(フウ)を纏えない。さすが若手はこの点は全く問題なかった。画面に大写しになることで、逆にそれぞれの個性が歌舞伎舞台よりもくっきりと押し出されていて、感動してしまった。映画であれ、テレビであり、この方達は十分というか、普通のタレント達よりはるかに実のある演技ができる役者であることが、確認できた。これは嬉しい「誤算」。

ベテランたちも負けていない。幸四郎、猿之助はいうにおよばず、ベテランたちも各自の濃いキャラを十二分に発揮、存在を刻印していた!中でも一番印象に残ったのが磯吉(染五郎)の恋人、アグリッピーナ役の高麗蔵。写楽の描く歌舞伎役者の顔で西洋人形のような扮装と化粧。あまりにもの異様さに、しばし無言。このアグリッピーナが見目麗しい染五郎とキスをする場面は、おそらくこの喜劇一番の「見せ場」だろう(?)。

もう一つの「気味の悪い」見せ場が猿之助のエカテリーナ女帝。猿之助の芸の幅と深さを認識させられる。また、愛之助の癖のあるキャラも生きていた。私はこの人が苦手なのだけれど、それでも魅入ってしまう魅力があった。それにしても濃い!ひたすら濃い!

幸四郎はこういう力ある若手と癖のあるベテランを取りまとめて、座頭役を見事に務め上げていた。一癖も二癖もある役者たち。彼らをここまで纏め上げるのは、真に実力のある彼だからこそ。この人こそ、(海老蔵ではなく)歌舞伎宗家になるべき人。それを改めて認識させられた舞台だった。その意味でもシネマ版公開は意味があった。さすが、松竹は分かっているんですね。

この歌舞伎の原型がみなもと太郎氏の漫画、『風雲児たち』であることを知った。しかも、主人公の大黒屋光太夫は実在の人物だとか。ここに描かれているストーリーは実話というのにも驚いた。三重県鈴鹿市には大黒屋光太夫記念館があるというので、近々伊勢神宮に参拝した折に、寄ってこようかと考えている。

そういえば、時代は少し下るけれど、大海原を漂流した後遭難、アメリカの捕鯨船に救助されたジョン・万次郎が光太夫に被った。鎖国状態の日本と異国との架け橋になった点では、共通している。アメリカのブラウン大学に在外研究員として1年間在籍した折に、プロビデンス日本人会会長の友人に連れられてマサチューセッツ州のフェアヘブン市で毎年恒例で開催される「ジョン・万祭(Black Ship Festival)」 を訪れたことが甦ってきた。友人を手伝って焼きそばを販売したっけ。懐かしい!みんな元気にしているだろうか?