yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

八月納涼歌舞伎第二部『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』@歌舞伎座8月26日その壱

今回の東京での歌舞伎観劇、収穫が多いなんてものではなく、頭の中がひっくり返り、心臓がバクバクするような、そんな舞台が見れた。それもすべての部で。新作、改訂作のオンパレード。第一部の『権三と助十』、第二部の『東海道中膝栗毛』、第三部の『廓噺山名屋浦里』どれもが野心的、革新的、だからとてつもなく魅力的。中でも最も革新的だったのが、猿之助と染五郎がタッグを組んだ『東海道中膝栗毛』。これまで舞台にかかったことのないような奇妙奇天烈、奇想天外、実に斬新な舞台だった。何よりも楽しかった。猿之助の実験、『ワンピース』と染五郎の実験、『阿弖流爲』とが掛け合わされて出てきたのだから、それも当然。しかもこの二人の革命児、全精力を傾けて丁々発止とやりあい、組み合っている。そこに生まれた舞台が面白くないはずがない。いわば夢のタッグ。よくぞ叶ったもの。またこの二人を軸に勘九郎と七之助、巳之助、獅童が脇を固めるのだから、これまたものすごい化学変化が起きている。

歌舞伎の身体を持つ役者がその持っている武器すべてを行使して作り上げた新しい歌舞伎、ネオ歌舞伎。この時、この場にいて本当に良かった!これが今後の歌舞伎路線のメジャーになることは、間違いない。三代目猿之助の「スーパー歌舞伎」、勘九郎(先代)の「コクーン歌舞伎」、「平成中村座」などが先鞭をつけた流れである。古典もいい。でもこの新しい歌舞伎もいい。この二つが、伝統と革新が両輪となって、歌舞伎は発展するのだろう。若い世代がこれを担っているのもいい。

こんなの見ちゃったら、ホント、どうしたらいいのかわからない。

いっぱい言いたいことはあるのだけど、きっと今日ここに書き留めるのでは収まりそうもないので、とりあえず「その壱」としておく。「その弐」は後日。

まずは付いたサブタイトルが笑える。「奇想天外!お伊勢参りなのにラスベガス?!」ですって。脚本に変更が7月末にあったらしいのだけど、推察するに染五郎のラスベガス体験を(無理やり)組み込んだ?対する猿之助も負けてはいません。やっぱり宙乗りが登場。それも猿之助、染五郎の二人!花火とともに豪快に打ち上げられ、その勢いで宙乗りへ。大サービス。

以下、「歌舞伎美人」からの引用。

十返舎一九 原作より
杉原邦生 構成
戸部和久 脚本
市川猿之助 演出

東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)
弥次郎兵衛
      宙乗り相勤め申し候


<配役>
弥次郎兵衛       染五郎         
劇場支配人出飛人/ 
奉行大岡伊勢守忠相   獅童
盗賊白井髭左衛門    市川右近
天照大神        笑也    
十六夜         壱太郎  
茶屋女お稲
実は三ツ大お新     新悟
五日月屋番頭藤六    廣太郎
梵太郎         金太郎
政之助         團子
読売屋文春       弘太郎
老船頭寿吉       寿猿
家主七郎兵衛      錦吾
役者/女札親師毬夜   春猿
石油王夫人麗紅花    笑三郎
役者/用人山田重右衛門 猿弥
闇金利太郎       亀蔵
アラブの石油王亜剌比亜太門之助
五日月屋女房お綺羅   高麗蔵
女房お米        竹三郎
喜多八         猿之助


第一場
ここの工夫がおかしい。弥次郎兵衛(染五郎)と喜多八(猿之助)カップルに対応する梵太郎(金太郎)と政之助(團子)の若手カップル。弥次喜多の道中にこの二人も同行することになるのだけど、おじさんたちのずっこけ、いい加減さに対し、若手は真面目で真摯。この対比が笑える。また子供役者に武士をトップ役者に町人を演じさせるところに、「価値観の転覆」が盛り込まれていたような。これ、滑稽本のキモだから。

筋書きに掲載されていた写真をお借りする。
梵太郎役の金太郎と政之助役の團子

そして弥次郎兵衛役の染五郎と喜多八役の猿之助

話が(旅が)進むにつれて、いろいろな絡みで二組が対比されるのは、そのまま当時の町人と武家との世界観の対比でもあっただろう。種本は十返舎一九作の滑稽本。真面目なはずがない。笑いの中に風刺がしのばせてある。でも表向きはどこまでも面白おかしく、突き抜けている。そしてそれはそのまま現代社会の風刺ともなっている。ただし深刻さは徹底的に排されている。これは『研辰の討たれ』とも共通したもの。こういうの、好き。

第二場
この場が第十場の「ラスベガスの場」と並んで、最もおかしかった。木挽町の歌舞伎座でちょうど『義経千本桜』の「吉野山」が上演されている。ちょっと見は大真面目な芝居のよう。でも忠信(猿弥)と静御前(春猿)との決め場面で後ろの後見(黒衣)が大失敗に次ぐ大失敗。猿弥さんと春猿さんは後ろにもんどり返って裾がはだけ、着物の中が丸見え!芝居はハチャメチャ。収拾がつかなくなる。カンカンになって後見を責め立てる役者。後見が被り物をとると、それは弥次郎兵衛と喜多八。つまり染五郎と猿之助。

芝居の役と実際の役者とを同時に見せるなんてのは、まさに歌舞伎ならではの工夫。猿之助、染五郎が歌舞伎のそういう特徴を思う存分利用しているのがわかる。二人が協力しあって、この形に仕上げたんでしょうからね。猿弥さんも春猿さんも大喜びで協力したのがわかる。実際の役者の地と歌舞伎の役柄と。しかも猿弥、春猿のお二方は二つの「役」を演じているんですからね。入れ子構造が二重になっているわけで、実にニクイ工夫ですよ。

この場での猿弥、春猿のぶっ飛びぶりがすごかったけれど、それ以上に猿之助、染五郎の弾けぶりもすごかった。おもちゃを与えられたいたずらっ子のよう。こういう「黒衣」、やりたかったんでしょうね。おかしくて、おかしくて、でも楽しさマックス!

書き残していたことを発見。これ、絶対に外せない。第二部は前から二列目の上手よりの席だった。ふっと上手の御簾を見上げると、なんとパンチパーマ頭の太夫さんが!確認できた人は多くはなかったはずで、残念。後で筋書きで確認したところ、竹本六太夫さん。三味線は鶴澤祐二さん。六太夫さんやりますね。笑いが止まらなくて、困った。

今日は一応ここまでにして、後日「その弐」を。