「謡と仕舞と語りで綴る『平家物語』」と副題がついている通り、平家の隆盛から滅亡までを九章仕立てでの「語り・舞」で見せる試みである。各章のはじめに現代語での解説があり、続いて平家の原文を使ってのハイライト部の朗読と仕舞が続くという構成になっていた。
全体を通しての現代文の解説・朗読部を「笙の会」主宰者、長坂祥子氏が担当されていた。構想、そして章立ても長坂氏によるものらしい。選ばれた場面はいずれも『平家物語』中で重要な意味を持つもの。能作品になったものでもある。原文・現代文の語りを担当されたのは、長坂氏以外に村上征夫氏と山木梨可氏のお二人。クライマックス部は強く、その他の部分は嫋嫋と語られ、メリハリがついた語りに魅せられた。全体を貫く語り部だった長坂氏の心地よい朗読にも、それ以上に魅せられた。
また箏曲の伴奏が付いていた。演奏者は浜野秀江氏。プロ演奏の箏曲を目の前で聞くのは久しぶり。
目の前といえば、超至近距離での仕舞も久しぶりだった。笠田祐樹師とお父上の笠田昭雄師のお二方が担当されたけれど、主として笠田祐樹師が舞われた。笠田祐樹師の謡と仕舞を最初に拝見したのは、上田拓司師が主催しておられる瓦照苑での小さな会で、力強い謡だと感じ入った。あとで、高校・大学とヨット部で活躍されたと知り、さすがだと感心した。神戸・大阪で開かれる能の会で地謡を務めておられたのも、拝見する機会があった。「平家」中の仕舞、謡もパワフルで、観客のみなさん感動されたと思う。お父上の笠田昭雄師の謡・仕舞を拝見するのはこれが初めて。謡の声がさすがだった。
九章構成の「平家」に入る前に、笠田祐樹師の「お能のワークショップ」があり、とても興味深かった。初歩的な解説の後、実際の面と装束を公開、解説してくださった。特に面は7種類ばかりを持参されていて、丁寧に解説してくださった。本当にgenerous!お能のワークショップは何度か経験したけれど、能楽師の方々のgenerousさに感動である。今回もそうだった。
コロナ禍で2ヶ月遅れの会であり、しかも座席も半分以下に減らされていて、主催者の方々はさぞ大変だっただろう。本当に申し訳ないほどの会費でちょっと心配になった。ほぼボランティアということでしょう。
また喜楽館がとても綺麗な会場で、観客の人たちも和気藹々という雰囲気だったのが良かった。つれあいは何度かここに落語を聞きにきたことがあるらしい。私はこの新開地地区にこんなおしゃれな場ができているのを全く知らずにいて、嬉しい驚き。収容人数は寄席を想定したもので、多くない。東十条にある大衆演劇の篠原演芸場を思い出してしまった。サイズも似ているし、雰囲気も似ている。
帰りは高速神戸駅まで歩いたのだけれど、途中新開地劇場の前を通ると、ちょうど大衆演劇の公演が終わったところで、お客さんたちに遭遇した。コロナにめげず頑張っておられるのが、嬉しかった。