今月の東京、歌舞伎は常にも増して激戦区。歌舞伎座、新橋演舞場、そしてこの国立劇場が三つ巴のありさま。地方巡業も同時進行なので、役者不足状態になっている。その中で、割を食っているのがこの国立劇場公演のような気がする。さらに言えば、国立劇場常連の菊五郎劇団が今月は歌舞伎座出演なので、その点でも「当てが外れた」感を持つ人が多いのでは。それを覆すほどの舞台であればいいのだけれど、なかなかそれは難しい。芝翫が頑張ってみても、役者不足を埋め合わせるところまでは行っていなかったような。
公演チラシの表・裏をアップしておく。
昨今の東京での歌舞伎人気は凄まじく、数年前だと意欲的なプログラムでも空席が目立った国立劇場も、そこそこ埋まっていた。その点ではホッとした。以下に国立劇場サイトからお借りした幕構成、配役をアップしておく。
序 幕 北野天満宮鳥居前の場
同 別当所広間の場
二幕目 吉岡宗観邸の場
同 裏手水門の場
大 詰 梅津掃部館の場
同 奥座敷庭先の場
(主な配役)
天竺徳兵衛/座頭徳市/斯波左衛門 中 村 芝 翫
梅津掃部 中 村 又 五 郎
梅津奥方葛城 市 川 高 麗 蔵
山名時五郎/奴鹿蔵 中 村 歌 昇
下部磯平 大 谷 廣 太 郎
銀杏の前 中 村 米 吉
佐々木桂之介 中 村 橋 之 助
侍女袖垣 中 村 梅 花
石割源吾/笹野才造 中 村 松 江
吉岡宗観/細川政元 坂 東 彌 十 郎
宗観妻夕浪 中 村 東 蔵
『天竺徳兵衛』は2012年11月に三越劇場での猿之助座長公演を見ている。記事にしているので、リンクしておく。
もう7年も前のことだと、感慨深い。当方のこの作品への評価はその時とあまり変わっていない。南北作品とは思えない凡庸さだった。天才南北、歴史物は苦手なのかもしれない。とにかくごちゃごちゃしすぎ。こういう場合は、スクリーンにあらかじめ人物関係図とあらすじをアップして、観客に周知してもらっておいたほうがいいように思う。全体の構図、流れがわからないと、その複雑怪奇さゆえに退屈な作品になってしまうから。それか、こういう「意欲的な」(厄介な)作品の場合は、舞台の中で工夫するべきだろう。いつもの国立劇場文芸部だったらそうしたはず(と、訝しんでいます)。
芝翫が存在感を発揮、特に「大詰」での座頭徳市が良かった。声量が他の役者と比べると格段にある。声量で彼と張り合っていたのは彌十郎のみ。出てきただけで、パアーッと舞台が明るくなる。彼一人が舞台を背負っていた感じだった。
彌十郎はいつも通り手堅い。ただ、ちょっと遠慮している感じがしたのは、気のせい?
歌昇が善悪の二役を演じたのが面白かった。いずれも折り目正しい演技。
橋之助は研究熱心な成果が出ていたように思う。一昨年の京都での「顔見世」時とは比べられないほどの飛躍である。名前が役者を「育てる」のだと、改めて感じた。