yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

特選 NHK能楽鑑賞会 観世流「烏帽子折(えぼしおり)」関根祥六・関根祥人・関根祥丸(DVD)

SOASライブラリーのリファレンス室で鑑賞したもの。NHKの5巻パックになったうちの一本。見たことのない演目ということで、『烏帽子折』にした。演者の関根祥六、関根祥人、関根祥丸各師については初耳だった。見終わった後、ネット検索をかけたところ、NHKサイトに行き当たった。制作・発売元だから当然ですね。2004年1月29日に国立能楽堂で公演録画されたもの。副題曰く、「次ぐを以て家とす~父・子・孫 三代の芸の継承~から」。

特選 NHK能楽鑑賞会 観世流「烏帽子折(えぼしおり)」関根祥六 関根祥人 関根祥丸

パッケージの表・裏をアップしておく。

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内容については「キネマ旬報社」のデータベースが以下の解説を。

22年の歴史を持つ、現代の能楽界を代表する演者による舞台「NHK能楽鑑賞会」の中から選りすぐった名演をDVD化したシリーズ第1弾。前シテを関根祥六が、後シテを関根祥人、子方を関根祥丸が演じた、関根家3代による「烏帽子折」を収録する。 

主要な演者は以下。実に大世帯!

前シテ・鳥帽子屋の亭主:関根祥六

後シテ・熊坂長範:関根祥人 

子方・牛若丸:関根祥丸
前ツレ・帽子屋の妻:武田尚浩
ワキ・三条吉次:森 常好
ワキツレ・弟吉六:舘田善博
熊坂一味の若者頭:上田公威
熊坂一味:清水義也・武田宗典・岡庭祥大・坂井音雅・角幸二郎

     武田文志・坂口貴信・坂井音隆・木月宣行・坂井音晴

アイ・小賊:野村万之丞・野村祐丞・山下浩一郎

アイ・六波羅早打:吉住講

アイ・宿主人:久保克人

 

笛:一噌庸二

小鼓:大倉源次郎

大鼓:亀井忠雄

太鼓:桜井均

 

後見:木月孚行・関根知孝

地謡:観世清和・武田宗和・観世芳伸・高梨良一

   浅見重好・藤波重彦・野村昌司・武田友志

鑑賞後、ネット検索をかけてショックな事実が判明。アイを演じられた野村万之丞師が2004年6月に亡くなられていた。享年44歳。このビデオの公演が2004年1月だから、このわずか数ヶ月後に亡くなられたことになる。野村万之丞師の小賊は愛嬌に溢れていて、元気いっぱい。このすぐ後に亡くなられたなんて、信じられない。あまりにもお若い。ご子息の野村太一郎さんがお祖父様の野村萬師の薫陶を受けて頑張っておられるのがせめてもの救い。

さらにショックだったのは、後シテの関根祥人師が急性大動脈解離で2010年6月に亡くなっておられたこと。50歳だった。そのお父上で前シテを演られた関根祥六師は、2017年2月22日、脳出血のため逝去されている。86歳だった。この録画が、「父・子・孫 三代の芸の継承」という以上に記念すべきものであったことが、よくわかった。それにしても能楽師で早逝される方がおられるということからも、能楽師という職業がかなり厳しいものであることがわかる。

「父・子・孫 三代」の三代目に当たられる子方(牛若丸)を演じられた関根祥丸さん、子供とは思えないほどの演じぶりで感心させられた。当時小学校4年生だったとか。この後お父上をなくされるのだと思うと、切ないですね。もっともビデオを見ている時にはそれを知らなかったのですが。現在25歳前後でしょうから、若手の中でも若い方。「見手」さんという方のブログに言及があった。2016年5月4日に開催された「関根祥人七回忌追善能」(宝生能楽堂)での感想をアップしておられる。題して、「「関根祥丸師を讃え過ぎるのは、能楽界の危機の裏返し」。関根祥丸君、活躍されているとのことで、安心した。世阿弥が杞憂したことは起きていなんですね。

この演目は上にあるように登場人物がやたらと多い。『安宅』を思い出してしまった。私は東京の役者さんの多くを実舞台で見ていないので、あまりピンとこなかった。もう12年も前の舞台録画でもあることだし。ただ、子方と後シテ(熊坂長範)、そしてアイの野村万之丞師の巧さは際立っているように感じた。この方々を中心に舞台が回っているような感じがした。特に野村万之丞師とそれに張り合うエネルギーレベルの関根祥人師とが光っていた。見ているときにはまだお二人が早逝されたことを知らなかったのに、何か特別なものを感じてしまった。

また、地頭の浅見重好師が全体のまとめ役をされていて、このやたらとごちゃごちゃとした舞台の場が引き締まったのは彼の「おかげ」かもしれない。観世宗家の観世清和師が舞われた舞囃子「高砂」の舞台でも地頭として宗家をサポートする役割をされていた。彼の謡い出しのところ、すごく好き。

お囃子では大倉源次郎師の小鼓が素晴らしい。鼓の澄んだ音色を刻印してゆく奥行きのあるそして伸びやかな掛け声はいつも通り。12年前も「健在」だったのを確認できて、満足。