今月は名古屋公演だとか。そういえば私が松竹座で見てから1ヶ月近く経過してしまった。評を書く気もしないほど失望したから。
今回の『ワンピース』、ABCDと四部構成になっていた。私が見たのは「B日程」。その配役は以下。
ルフィ、ハンコック 市川 猿之助
白ひげ 市川 右團次
ゾロ、ボン・クレー、スクアード 坂東 巳之助
サンジ、イナズマ 中村 隼人
サディちゃん、マルコ 尾上 右近*
ナミ、サンダーソニア 坂東 新悟*
アバロ・ピサロ 市川 寿猿
戦桃丸、はっちゃん、ニューカマー・スー 市川 弘太郎
ベラドンナ 坂東 竹三郎
ニョン婆 市川 笑三郎
ジンベエ、黒ひげ 市川 猿弥
ニコ・ロビン、マリーゴールド 市川 笑也
マゼラン 市川 男女蔵
つる 市川 門之助エース、シャンクス 平 岳大*
ブルック、イワンコフ 下村 青*
ウソップ、赤犬サカズキ、ニューカマー・サッチン 嘉島 典俊*
センゴク 浅野 和之*
私は2015年10月に新橋演舞場に乗ったのを見ている。その折に入手したプログラム掲載の配役表と比較してみた。「*」印のついている役者は入れ替え、もしくは役を追加、あるいは減らされた人。特に大幅な変更は尾上右近と坂東新悟。そして平岳大が新たに加わったこと。プログラムC、Dでは、猿之助がルフィ役を右近に譲っている。ただ、主要な役どころに大幅な入れ替えはなさそう。
猿之助がルフィを右近に譲るのは、『ワンピース』公演中の昨年10月に(@新橋演舞場)、左腕骨折をしたため右近を代役に立てて以来。右近は期待に応えて、見事にルフィを務め上げたとか。私は見ていないが、右近の役者としての才能と意欲は歌舞伎の舞台ですでに確認していたので、そう驚きはしなかった。また巳之助も猿之助欠場を埋めるのに奮闘したとか。これにも驚かない。彼の才能はここ数年で確認済み。右近、巳之助の二人はこれからの歌舞伎界を背負って立つ役者だと確信している。今回はそれに坂東新悟が加わった。彼も右近と同じく旧「ワンピース」には関わっていなかった。そこに歌舞伎若手の一人、隼人が入っているのは以前と同じ。もっとも変わったのはエース役に平岳大を起用したことだろう。第一版ではエースは福士誠治だったから。
猿翁が育て上げた澤瀉屋を代表する役者一同が以前と同じく周りを固めているのは同じ光景。彼らは本当に手堅い。演技だけではなく理解力、自己演出力ともに確かさがある。安心して見ていられる。私が今回の舞台で唯一「さすが!」と唸ったのは澤瀉屋の役者陣。残念ながら春猿は新派に引き抜かれてしまったけれど、笑三郎、笑也、猿弥といった主だった役者はここにとどまり、猿之助を支える強力な布陣を張っている。猿翁が教育者としていかに優れた人だったかを思い知る羽目になった。
若手では新規に起用した右近がやっぱりよかった。また新悟も春猿の代わりを見事に務めていた。巳之助は以前より落ち着いて役と向き合っている感じがした。この舞台でもっとも光っていた。特に自身の裏切りで身を苛むところのリアリティが優れていた。平岳大はエースには適任だったけれど、「歌舞伎」舞台のどこに身を置いていいのか、迷っている感じがした。
2015年に見て記事にした折にも書いたけれど、結論をいうと満足できるものではなかった。横内謙介演出はそのままだから、大きな刷新がされていないのは予想できたのではあるけれど。この人の民主主義的というか、旧弊な価値観をお題目のように役者に叫ばせる演出法には以前に辟易した。猿翁が活躍していた折にも大きな作品は横内が演出しているけれど、生の舞台で見た折にも、DVD版を見ても、一片の感動も感じなかった。ただ、三代目猿之助をサポートする役者たちが三代目子飼いの役者たち、彼らの卓越した演技のおかげで、なんとかお題目もそう目障りにならずに聴いていることができた。感動をする場面もあった。
今回の『ワンピース』、以前のものに増して「お友達大事!」、「家族は仲良し!」の連呼が多かった。原作がそうなっているのかどうかは知らない。多分、ここまで露骨な価値観の押し売りはないと思う。若い?人にあれほどの人気があるというのは、そういう臭みがないからだろうから。こういうチープな押し付けにはうんざり。途中で座を立とうと思ったほど、呆れた。
全体を一言で表現するなら「ままごと遊びのリサクル」。今回の舞台の内容も以前とさほど変わらず。つまり進歩なし。だからリサイクル。内容は太平楽な子供の「ままごと」の域を出ないから上の句になる。猿之助さん、これはないですよ。新鮮さの全くない、古びた価値観を押し付ける舞台なんて、あなたには似合っていない。
さらに興ざめだったのはタンバリンなるものを売っていたこと。これを公演中に客が揃って打つというのだから、なんともはや!また舞台進行中に役者たちが客席に登場。これはいいのだけれど、客に立つように促す。周りを見回すと私を除いて全員起立。恐れ入った。どこまでの押し付け?
確かに小劇場の演出法でも似たようなものがある。大衆演劇では十八番になっている演出でもある。客席を巻き込んでの踊り。ラストショーなどでは常態になっている。そちらは促されなくても、客は立つ。もちろん立たない人もいるけれど、それも抱えこんで舞台が客席まで伸長している。自然発生的に。楽しいから。そういうのがこの『ワンピース』に感じられなかった。演出では大衆演劇を模倣していると思われるところが何ヶ所もあったのだけれど。「おかまのダンス」なんてまさにそう。
もっと腹立たしかったのは、二万円弱ものチケット代。小劇場では高くて五千円、大衆演劇では高くても二千円ですよ。こんな舞台に高いチケット代を払う人の気が知れなかった。高額になったのは、「猿之助復活」を(涙して)待ち受けている人たちを集めるためだった?彼(女)なら、ポンとそれくらいの金額を払うだろうと、当て込んだ?こういう下品さがイヤ。でも目論見は見事当たり、連日大入りだったとか。
猿之助も演出をもっと斬新な演出ができる人に頼るべきだろう。例えば串田和美のような。