夜の部は「将軍江戸を去る」、「封印切」、「棒しばり」の三演目。その間に口上が入った。最も良かったのは最後の「棒しばり」。
以下、『歌舞伎美人』から配役とみどころを引用させていただく。
<配役>
次郎冠者 片岡 愛之助
太郎冠者 中村 壱太郎
曽根松兵衛 中村 亀 鶴<みどころ>
主人である大名の留守に、毎回こっそりと酒を盗み飲む次郎冠者と太郎冠者。これに大名は一計を案じ、一人は棒に、一人は後ろ手に縛りつけ外出します。それでも酒蔵に入り込んだ二人は、器用に酒を飲みかわすのでした。可笑し味のなかにも、「松羽目物」の品格を漂わせる人気舞踊をご堪能ください。
愛之助、壱太郎のコンビは『GOEMON』でのそれの延長線上にあり、とても息が合っていた。ふたりでの相舞踊も、ここでは「連れ舞」といっていたけど、生き生きと楽しげで、観客席もそれに影響されだんだんウキウキムードになって行った。亀鶴も普段からこの二人とよく組んでいるのでそのノリが反映し、仲良し三人組の舞台という感じだった。でも馴れ合いというのではなく、なんとか「若手」三人で舞台を盛り上げようという熱意を強く感じるものだった。国生、虎之助をのぞけば、この三人が主要演者のなかで一番若い層になる。全体として中堅以上の年嵩の役者が揃っている中で、最後になってやっとイキの良い舞台を観れたという感じ。
『棒しばり』は狂言『棒縛』のアダプテーション。「みどころ」にもあるように、能由来の「松葉目物」。能/狂言に由来する歌舞伎の作品は、言語を超えて万人に理解されるものが多い。海外公演でこれらがよく使われるのはそれが理由の一つだろう。歌舞伎初心者にも取っ付き易いに違いない。
今までに数回、「棒しばり」は歌舞伎で観ているが、今回のものが一番楽しめた。もちろん基本が笑いの上に成立しているから当然なんだけど、今回はいわゆる芸達者の例えば三津五郎などが踊るのと違い、もっとくだけた日常が持ち込まれた感じ。これは若手ならではの「解釈」が入っているからだろう。それと身体の使い方もいわゆる「名人」とは異なったものにならざるを得なかったからかもしれない。ソフィスティケートされた舞台をみせるというのではなく、彼らの目的が客を楽しませるというところにあったからのように思う。
身体の柔軟さが求められる動きが多く、愛之助は獅子奮迅のがんばりをみせていた。一方壱太郎もがんばっていたけど、なにか「愛之助にいさん、がんばってね!」なんてちょっと下駄を預けた感じ。なんといっても若いから、こういう演目ではなんでも(未熟でも)赦されてしまうそんな、すっとぼけた感じがあった。これはこれでご愛嬌。お父様の襲名興行だから、彼にも普段の公演よりはるかに強いプレッシャーがかかっているはず。でもそれを仲良しの愛之助、亀鶴、二人と組むことで、いささかなりとも「気楽」にかわすという工夫かも。