yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『法界坊』たつみ演劇BOX@京橋羅い舞座2014年9月21日夜の部

たつみさんの『法界坊』は今年の元旦に梅田呉服座で観ている。歌舞伎を下敷きにしていたが、そのままやると長くて時間に収まらない。骨組みとその「精神」はそのままに、かなり短くまとめられていた。でも不自然感、齟齬はまったくなく、理がきちんと通るように、それが観客に判るように組み立てられていた、あらためてたつみ座長のスマートさに感服。もちろん元旦に観た折にも感心したのだけれど、今回は二人の座長さんたちをどう配置するかで、きっと頭を悩まされたことだろう。ぴったりとそれぞれのニンにあった配役になっていた。もちろん演劇BOXの中でも多少の入れ替えがあった。配役は以下。

法界坊    たつみ
お組     ダイヤ
要助     良太郎
大阪屋    愛飢男
甚三     若丸
永楽屋番頭  小龍
永楽屋女将  京香

『法界坊』、正式名は『隅田川続悌』。奈河七五三助作。天明4年(1784)、大坂角の芝居初演だそう。「お家騒動」を枠にした筋組になっている。家宝の刀や掛け軸をめぐって善役と悪役がしのぎを削る闘いを展開するというのがお家騒動つきもののパターン。最後に悪は滅ぼされるのだが、それに至るまでの家宝の奪い合いが筋運びの推進力になっている。『法界坊』ではそれは吉田家の家宝、「鯉魚の一軸」。吉田家の若様、松若がその盗まれた家宝を探しているという設定。そのお家騒動劇に色ボケ、金ボケのナマクサ坊主の法界坊が絡むのがこのお芝居。

お家騒動もののトーンはたいていは悲劇なのだけれど、このお芝居は喜劇。それというのもこのナマクサ坊主が狂言廻し役になっているから。ホント笑わせます。また色欲と金欲に憑かれた商人、店の番頭、若様の敵の侍などがそこに絡むので、可笑しさが増幅される仕組み。

たつみ版『法界坊』もその路線をしっかり踏襲。というか歌舞伎よりずっとオカシイ。たつみさん、若丸さん、良太郎さんという笑いの知能指数(?)のきわめて高い座長さんたちが全力投球で丁々発止のやりとりをするんですからね。勘三郎の平成中村座のものよりその点では上を行っているのではないかしらん。

さて、こちらの『法界坊』、のっけから甚三役の若丸さんと要助役の良太郎さんの絡みで笑わせます。要助、実は吉田松若という武士なので、口入れ屋の主人、甚三役の若丸さん、要助役の良太郎さんに「若!」を連呼します。誰も止めなかったら、暴走していたこと間違いなし。元旦の折にはお組はみつきさんが演じたのを、今回はダイヤさん。声がかすれ気味で女性の声というのにちょっと無理があります。それとやっぱり大きい。そこをすかさず、二人がツッコム。これこそ大衆演劇ならではの醍醐味。お客さん大喜び。冒頭からなんとなくオカシイ感が充満した舞台。

そして真打ちの法界坊登場。元旦に観た折にも爆笑でしたが、今回も客席にざわめきが。あのオトコマエのたつみさんがみごとナマクサ乞食坊主に変身していました!よれよれの破れ袈裟、臭ってきそうな汚い風体。中途半端に毛のある頭には大きなハゲが。悪党は悪党なんだろうけど、なにか憎めないのはそのあまりにもひどい外見とやたらと自信ありげな態度に大きなギャップがあるからでしょう。若丸さんもこういう役はこれ以上ないほど得意役にしておられますが、たつみさんも負けていません。タイプは違いますけどね。

以降の筋は省略しますが、これ以上ない芸達者の役者が揃っている舞台が面白くないはずがない。もとの筋自体がおかしい上、アドリブに次ぐアドリブ満載。ずっと笑いっぱなしだった。

先月は大川良太郎座長公演のこの京橋羅い舞座に若丸さん、たつみさん、ダイヤさんが参戦してのお芝居、『浪人街』だったのだが、私個人としてはこの『法界坊』の方が楽しめた。もちろん『浪人街』も役者さんそれぞれのニンに合った役が振り当てられていて、すばらしかったのだけれど。笑いのIQがこれほど高い座長さんたちがそろうとしたら、ヤッパ喜劇でしょ。