この日はダブルの大入りだったのですが、ぜんざいが振る舞われました。それも座長のお母さま自らが配ってくださいました。このお母さまはとてもパワフルな方で、お芝居も彼女が出られると場がしまります。ただ、この日のお芝居への登場はありませんでした。
ぜんざい、おいしかった!翌日自分でも作りました。一昨年12月につれあいと浪速クラブに「劇団飛翔」をみに行った際、豚汁が振る舞われて感激したことを思いだしました。人間食べ物の恩(?)はずっと身体が(舌が?)覚えているのでしょう。つれあいと「飛翔」の話になると、いつもこの豚汁が出てきます。
お芝居
題名を控えていません。「激愛」とおっしゃったと思ったのですが、そうではなかったかも。以下が内容です。
土地のやくざの親分(祐樹)の娘きく(エクボ)は親が決めた許嫁の大五郎(こうた)が気に入っていない。今日も海岸にいたところ彼に絡まれ、逃れようとしていた。それを通りがかりの旅人、七五郎(京馬)に救われる。そこへやって来たのが、一家の代貸し、源太(座長)とその女房(みか)だが、女房は相模屋親分の妹だった。源太は七五郎の父親とは顔見知りだった。父を亡くした七五郎は修行の旅に出ていたのだ。
七五郎を気に入ったきくは家へ連れて帰る。面白くないのは大五郎。彼は幼い頃親分に拾われ、息子同然に育てられ、やがては二代目を継いだ上できくと一緒になることを楽しみにしていた。源太もそういう大五郎の気持ちを察している。というのも、彼も大五郎を実の弟のようにかわいがってきたから。
一方きくは七五郎にぞっこんで、外出をした七五郎を捕まえて思いをうちあける。七五郎も彼女を憎からず思っていて、ふたりはやがては一緒になろうと誓いあう。きくが家に帰って行ったあと、源太がやってきて七五郎に話があるという。きくのことを諦めて、家に帰ってほしいというのだ。事情を聞いた七五郎が源太の説得に応じ、帰ってゆこうとしたところ、木陰に隠れていた大五郎に後ろから闇討ちにあう。大五郎が止めを刺そうとしたとき、丁度源太の女房が通りかかる。逃げる大五郎の姿を見届けた女房は、瀕死の七五郎を家に連れ帰る。
きくと大五郎の祝言が予定を大幅に早く、とりおこなわれようとしている。そこへ瀕死の七五郎がドスを手にやってくる。源太がたしなめるが、七五郎は自分がそのような状態になった顛末を一同に話す。証拠がないと開き直る大五郎。そこへ源太の女房がやって来て、一切を明らかにする。
大五郎は二人だけで勝負をしようと七五郎にいう。承知する七五郎。よろける身体で大五郎に立ち向かう。七五郎は大五郎の刃に倒れ、絶命する。その七五郎にまだ止めを刺そうとする大五郎を源太が制す。一同の冷たい視線を感じた大五郎は親分、つぎにはきくに訴える。大五郎の言い訳の長台詞。それを拒絶する親分ときく。絶望した大五郎に源太が自刃するようにいう。
逡巡していた大五郎だが、最後は覚悟を決めて自決する。この場面、恐ろしく長く感じられました。それを見届ける源太。きくが七五郎の死骸の上に打ち掛けをかけようとするのをとめて、大五郎の上にかけさせ、自分の羽織を七五郎にかける源太で幕。
なんとも重い芝居でした。九州系の劇団では十八番なのかもしれません。たとえば『喧嘩屋五郎兵衛』のように。私個人はこういうお芝居はどうも苦手です。こういう心理の絡みが、現代人にシンパシーをもって受け入れられるとは到底思えないからです。この芝居でゆくと、それにつながる濃い見せ場が二つありました。一つ目は大五郎の自己正当化の長台詞の場。もう一つはこれまた大五郎の自決の場面。
ただ、今までみてきた九州系の劇団に比べると、違った点もありました。それは座長、若座長を始め演じ手が若いがゆえの、内容と演技との乖離です。おそらく「これは濃すぎるな」とか「重すぎるな」とか意識しながら演じておられるのだと思います。今までみた九州系劇団では内容と演技との距離があまりにもなくて、演者のナルシシズムのみが立っていました。そういうナルシシズムには観客は引いてしまいます。引いていないのは男性の老人のみでした。現代でも九州のお芝居特有のアクというか「泥臭さ」を求める観客もいないことはないのかもしれませんが、そのままではあまりにも現代人心理とはかけはなれているのではないでしょうか。そこに一工夫加えて、新しい形にした方が、より多くの人の心を打つように思います。そのあたり、聡明な座長は十分に認識されているに違いありません。
劇団美山は伝統のある劇団だとのこと。伝統をいじるというのは難しいのかもしれませんが、たかし座長なら可能でしょうし、また是非していただきたい。新しいことに挑戦される度胸と才能をもっておられると確信しています。
この日、夜の部に松村雄基さんが来ておられました。座長は大興奮(こういうところカワイイ)、口上中に舞台の上に招来されました。松村さん、カッコいい方でした。贅肉のないスリムな身体、そしてちょっとシャイで、おばさまたちも大興奮。写真を撮りまくり、舞台上で松村さんと決めのポーズをする座長に「座長、邪魔」だなんて。
座長は三部の舞踊ショーの女形のときに、松村さんの傍で長い間停まり、じーっとみつめ秋波を送り「迫って」おられました。おかしかった。松村さん大いに照れて、ちょっとお気の毒でした(笑)。