フルートの演奏会、演奏者のエミリー・バイノンさんのネットでの評判がよかったので出かけた。英国のウェールズ出身というのも興味をそそられた。ウェールズはなんてたってケルト民族の拠点ですからね。当然「ケルトの妖精」を期待しますよ。そして写真でみるかぎりそう呼べるような美しい方だった。実物もほんとうに美しい方だった。それに写真では伝わらなかった温かみのある、どこか東洋的な感じのする方だった。たとえばウェールズ出身のキャサリン・ゼタ=ジョーンズを思い浮かべていただければいいのだけど、一般的にいってケルト系の人はアングロサクソンなどに比べて髪も黒っぽく、東洋的な感じがする(あくまでも私の主観ですが)。日本人の英文学研究者が夢中になるのもケルト系の作家が多い。もっとも英文学史中の大物のほとんどがアイルランド出身者をふくめてケルト系なのだけれど。バイノンさんの演奏自体、ほんわかとした中にもきりっとした、でも挑むというのではない、潔さのようなものがあった。
でもバッハやモーツァルトの古典派の曲を期待して行ったので、プログラムではうっちゃりをくらってしまった。フルートの演奏会そのものがあまり多くないこともあり、実際にフルート演奏を生で聴くのは3回目である。前の2回ともにモーツアルトが入っていたので、よけいに驚いた。
以下がプログラムである。
全体的に「新しい」、つまり20世紀に入ってから活躍した作曲家のものである。曲調ももちろん新しく、古典派、ロマン派のものに比べると、冒険しているというか、あえて調和を破るところがあり、視聴者に挑戦しているような感じがした。生き生きと躍動的で、それがときどきふっと乱れてそこに魅力があった。とはいえ、プロコフィエフにしてもコープランドにしてもプーランクにしてもCD等でそんなに聞いたわけではないので断言はできないけど。コープランドはアメリカ、それもブルックリンの出身だからリンカーンセンターの演奏会で何回か聞いた。プロコフィエフは『ピーターと狼』くらいしか聞いたことがなかったので、初めてに近い。『ピーターと狼』の躍動感、軽やかさはこのソナタにもあった。
私がいちばん良いと思ったのは、最後のプーランクの「フルートとピアノのためのソナタ」という小品だった。プロコフィエフ、コープランドに比べるとさすがフランス出身とおもわせる軽やかさがあった。そしてドビュッシーのピアノ小品を思わせるおしゃれさ、いきさがあった。バイノンさんもとても楽しげにのりのりで演奏されていた。それに、この曲にピアノ伴奏の見せ場が多くあって、伴奏者の鈴木華重子さんの力量が並々ならないこともよく分かった。高校は県立西宮高校だから、このご近所のご出身ではありませんか。以下がバイノンさんと鈴木さんの写真の入ったプログラムの一部である。