yoshiepen’s journal

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歌昇、扇雀の火花を散らす睨み合いが「義士」の真髄に迫る『元禄忠臣蔵―御浜御殿綱豊卿―』 @国立劇場小劇場 3月9日

 

扇雀と歌昇との丁々発止の応酬

全員が初役で挑んだ「御浜御殿」。舞台に気が満ちていた。今までに何度も「御浜御殿」を見ているけれど、今回の舞台がもっとも説得力があった。直近では昨年1月の「浅草花形歌舞伎」で松也の綱豊卿、巳之助の助右衛門で見ている。

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扇雀の綱豊卿の理解、歌昇の助右衛門解釈が、互いをぶつけ合っていた。綱豊卿の老獪な(思慮深い)哲学と助右衛門の(若い)気勢とが互角に組むことで、心理劇、それも極めて現代的なそれが立ち上がっていた。昨年見た「御浜御殿」も現代的では合ったけれど、双方の心理により深く踏み込むという点では今回の方が一枚上手だった。

現代劇の身体を持つ扇雀と歌昇

扇雀が綱豊卿を演じたのが大きいと思う。扇雀が現代劇の身体を持った役者であるのは、故勘三郎と組んだコクーン歌舞伎等で実証済みである。でもここまで踏み込んでの「大義」理解をしてみせたのは想像以上だった。理論派であることがわかった。一方の歌昇はこういう演技をする役者だったとは予想外だった。無念の死を遂げた主君への強い想いと蔵之介への失望とに揺れ動く助右衛門。それを必死で隠すのだけれど、綱豊による揶揄の連発によって思わず綻び顕れてしまう。「大義の意味を理解できていない」と、助右衛門の未熟さをさらに煽り立てる綱豊。その綱豊に翻弄されるいかにも若い侍を、歌昇は見事に受肉化して魅せた。感動的だった。この1月も浅草花形歌舞伎で見たところではあったけれど、こういう現代劇、心理劇も合った役者であることを発見してしまった。

他の演者

新井白石役の又五郎がいかにも儒者という感じだった。穏やかで、それでも信念をしかと持った思想家の風情が出ていて、綱豊卿が頼るのも宜なるかなと思わせられた。

お喜世役の虎之介も初々しくて、予想以上によかった。もっともみるのはこれが二回目。露出度が高くないのは、今までは学校が合ったからだろう。まだまだ伸び代がありそうな役者。

江島役の鴈乃助がいかにも上臈然とした感じ。品格があった。上方の芝居ではよく見ているけれど、今回のように大役もこなせる役者さんだとわかった。江島は綱豊卿が六代将軍家宣になって江戸城に入ったのに従って大奥に入り、後にあの「江島生島」のスキャンダルで有名になるんですよね。

武士の大義の受肉化に成功

それにしても「御浜御殿」はここまで面白い芝居だったんですね。ニンに合った役者二人がぶつかれば、ここまで面白くできたんですね。私の今までの印象では、「武士の大義というたいそうなものを押し付けてくる甚だ退屈な芝居」でしかなかった。そこで謳われている大義なるものへの同情は、さほど持てなかった。ところが今回の舞台では、「大義に殉じる武士」像が多少なりとも解ったし、コンパッションも持つことができた。それも収穫。

綱豊卿が舞った能『望月』は『忠臣蔵』そのもの

昨年1月の「御浜御殿」の記事にも書いたのだけれど、綱豊卿が舞った能は『望月』。「筋書き」に載った解説(12頁)によると、真山青果の原作では『船弁慶』となっていたとか。それを初演時に青果の友人、豊島氏の指導で変更になったとか。もちろん能『望月』は『忠臣蔵』の内容とかぶり、アリュージョンになるので、芝居としてはより良くなっている。

 

国立劇場サイトから

以下国立劇場のサイトからの製作者と構成、そして演者一覧。

<作・演出>

真山青果=作
真山美保=演出

伊藤熹朔=美術
中嶋八郎=美術

<構成>

第一幕 御浜御殿松の茶屋
第二幕 御浜御殿綱豊卿御座の間
        同      入側お廊下
        同      元の御座の間        
        同      御能舞台の背面

 

<主な配役>
徳川綱豊卿                         中 村 扇  雀
富森助右衛門                       中 村 歌  昇
中臈お喜世                         中 村 虎 之 介
新井勘解由                         中 村 又 五 郎

また、国立劇場の「歌舞伎公演ニュース」に合った解説が非常にわかりやすかったので、引用させていただく。

www.ntj.jac.go.jp

 元禄14年(1701)3月14日、赤穂藩主・浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)は、江戸城内で吉良上野介(きらこうずけのすけ)に刃傷に及び、即日切腹。浅野家は断絶となりました。
 その翌年の3月、徳川綱豊(後の六代将軍家宣)の屋敷では「お浜遊び」という催しの最中。赤穂浪士が主君の敵と狙う吉良も招待されています。
 学問の師・新井勘解由(あらいかげゆ)との対話で、浪士の討ち入りを支援したいという思いを強くした綱豊は、彼らの真意を探るため、寵愛する側室・お喜世(きよ)の兄で浪士の一人・富森助右衛門(とみのもりすけえもん)を座敷へ招きます。

 綱豊から浅野家再興を将軍家へ申し出る旨を聞き、再興が決まれば復讐の機会を失うと焦った助右衛門は、宴の催しとして能を舞う吉良を闇討ちにしようとしますが……。助右衛門の早計を予見していた綱豊は、助右衛門を押し止め、満開の桜の下で討ち入りの大義を説きます。

 華やかなお浜遊びの情景の中で描かれる綱豊をめぐる人間関係、火花を散らす登場人物たちの対話、浪士たちへの深い思いの滲む綱豊の長台詞、夜闇に満開の桜が浮かぶ美しい舞台装置など、新歌舞伎の魅力が満載の舞台です。
 今回、扇雀が綱豊に初役で挑みます。また、中村又五郎が18年ぶりに勘解由を勤めるほか、中村歌昇の助右衛門、中村虎之介のお喜世など新鮮な配役でご覧いただきます。

さらに、「歌舞伎公演ニュース」からの扮装写真が以下。

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扇雀の綱豊卿

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綱豊卿の「望月」の装束