yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

MET ライブビューイング オペラ『遥かなる愛』L’Amour de Loin @大阪ステーションシティシネマ

一応、日程はカレンダーに入れておいたのだけど、行くつもりはなかった。ところが松竹サイトで美しい主役歌手の写真を見て、急遽見に行くことに。現代の作曲家の手になるオペラ。演出、舞台装置の斬新さはMETの十八番。今回は舞台装置が特に衝撃的だった。まだご覧になっていない方はぜひ劇場でご確認を。ハイテクを駆使したもの。METだから可能だったのだろう。幕が開いた瞬間、「ウォー!」と叫んでしまった。以下、今回のプロダクション。

作曲:カイヤ・サーリアホ Kaija Saariaho
指揮:スザンナ・マルッキ Susanna Mälkki
演出:ロベール・ルパージュ Robert Lepage

配役
クレマンス  スザンナ・フィリップス Susanna Phillips
ジョフレ  エリック・オーウェンズ Eric Owens
巡礼の旅人  タマラ・マムフォード Tamara Mumford

概説
理想の女性に、真実の「愛」に出逢うため、遥かなる海を渡る騎士歌人!21世紀を代表する女流作曲家K・サーリアホによる、「愛」の極限を追求して数々の賞に輝く現代屈指の名作オペラが、話題のMET初演!「シルク・ドゥ・ソレイユ」で世界的な人気を博するR・ルパージュが演出する、約5万個のLEDライトが輝く「海」は圧巻!新世代の歌姫S・フィリップスとベテランの巧さが光るE・オーウェンズの主役カップルも強力だ。

12世紀のフランス。ブライユの領主で騎士歌人(トルバドゥール)のジョフレは、享楽的な生活に飽き、理想の女性を求めていた。そこへ現れた巡礼の旅人から、トリポリの女伯爵クレマンスこそ自分が求める女性だと知り、憧れをつのらせる。クレマンスもまた巡礼の旅人から受け取ったジョフレの詩を読み、まだ見ぬ彼に恋心を抱いていた。ついにジョフレは、海を渡ってクレマンスに会いに行くことを決意するが、トリポリに近づくにつれて不安がつのり、心身をさいなみ始める。トリポリに上陸した時、ジョフレは病に冒されていた…。

とにかく主役のスザンナ・フィリップスの美貌に圧倒される。ここまでの美形のオペラ歌手はいないのでは。声も伸びやかで、よく撓う。高い音階から下のものまで転がすような滑らかさで歌いきる。絹の響き。こんな歌手がアメリカから出てくるんですね。ちょっと驚いた。あの明るさ、天真爛漫さはやっぱりアメリカ人のものかもしれない。でも北東部、西部、中西部の出身ではなく、南部、アラバマの出身と聞けば、なんとなく納得したりして。

登場人物がたった三人。しかもその三人全員がアメリカ出身。ジョフレを演じたエリック・オーウェンズはフィラデルフィアの出身。テンプル大の音楽部を出てからカーティス音楽院で修士号を獲っている。フィラデルフィアに住んでいたとき、カーティス音楽院には何度かコンサートに出かけたので、親しみを感じる。しかも彼はMETライブビューイング『エレクトラ』でOrestを歌っている。奥行きのあるバリトン。オレステスにはちょっと歳がいっていたけれど、その懸念を吹き飛ばす巧さだった。エレクトラの弟というより、兄っていう感じだったけど。

巡礼の旅人を演じたタマラ・マムフォードはカリフォルニアの出身。アンドロジナスな巡礼という設定。知性派であるのは、インタビューですぐにわかった。この両性具有的な役は演じるのに自分なりの「解釈」を施さないと、訳のわからない人物になってしまう。でも、彼女はそこがしっかりとできていたので、二人の主役の幸福を願って仲介をしたのに、最後は悲劇に導いてしまったことを悔み嘆く心持ちが、観客にじんじんと伝わってきた。カーテンコールでも盛大な拍手を浴びていた。

現代に生きて活躍している作曲家のオペラを見るという、得難い機会。作曲者のカイヤ・サーリアホさんも舞台に上がって挨拶。これも感動的。フィンランド出身の作曲家の作品と聞けば、あの曲の西洋音階を少々外れた響きが納得できる。Wikiで「フィンランド音楽」を当たって見ると、「多くのフィンランド音楽は伝統的なカレワラに表されるようなカレリア音楽の旋律や歌詞に影響を受けている。カレリア文化はドイツ文化の影響が少なく、フィンランドの神話と信仰の最も純粋な表現が認められる。音楽的なフィンランドの位置は西洋と東洋の間である」との解説が。ドイツ的なきっかりとした音階ではなく、ふわふわした感じ。それが神秘性を醸し出している。聴きながら能の謡を聞いているような心持ちになった。トランス効果がある。和音というか、一つの旋律ではなく複合的な旋律の組み合わせが主軸になっている。変幻自在な感じ。

ただ、オペラ作品なので、そこはできるだけ枠に収めるような作業がしてある。舞台が中世で、しかも吟遊詩人を題材にしているなんてところも、能との共通点を強く感じてしまう。また、神秘性といえば、登場人物がタロットカードの人物とも重なるような気がした。巡礼の旅人は「愚者Fool」だし、クレマンスはさしずめ「女教皇 High Priestess」、ジョフレは「隠者Hermit」かななんて、思いながら観ていた。

松竹サイトからの予告篇の視聴映像をリンクしておく。

そうそう、一番驚いたのが観客数の増加。平日の朝10時前に開演だったのに、50人弱の人がすでに会場に。2年ほど前には10人くらいだったのと比べると、飛躍的に伸びている。ライブビューイングが広く認知されたということだろう。喜ばしい。