先日図書館に小学館日本古典文学シリーズ内の『今昔物語集』を借り出しに行った折、すぐそばにあった『住吉物語・とりかへばや物語』が目にとまった。中をぱらぱらみてみると、面白そう。『とりかへばや』についてはアメリカにいた頃、私の指導教授がなんどが言及されたので気になっていた。ずいぶん前のことになってしまった。『今昔物語集』の方はやめてこちらを借り出し、さっそく読んだ。予想以上に面白くて、2日間かけて読んでしまった。ただしほとんどは訳の方。石埜敬子さんの訳はすばらしい。原文も源氏よりは読み易い。
この物語、現代にも十分通じるし、今の読者がよろこびそうな題材だと思ったら、なんと漫画がでていることを知った。それが、漫画、『とりかえ・ばや』。『月刊フラワーズ』(小学館)で2012年9月号から連載しているという。
小学館版のこの物語の解説はおそらく石埜敬子さんが付けられたのだろう。とくに以下の箇所。
この作品は長らく、奇怪、醜穢、頽廃の物語として、不当に扱われて来た。しかし、近年になって、『源氏物語』以降の「女の物語」の流れに位置する作品として読まれるようになり、ジェンダー研究や心理学の立場からも、これまでにない関心が寄せられている。
「頽廃の物語」というのに、驚いてしまった。男女が入れ替わって、そればかりか結婚生活までその性(ジェンダー)のままつづけるというのは、近世以前には異常なことと理解されたのだろう。でもこのチェンジリングという道具立てが、現代の目からみると限りなく面白く、魅惑的なんですけどね。シェイクスピアの『十二夜』しかり。そういえば手塚治虫の『リボンの騎士』だってその要素がありますよね。
ジェンダー研究、精神分析の観点からも、限りなく魅力的な題材。この物語はそういう分析に耐えるだけの深さがある。平安時代に書かれたという時空を超えて、現代の物語として十分通用する。『源氏物語』にみられるテーマの多くがそのままこの物語にみられる。著者は当然女性だろう。少女漫画(?)として、現代の女性に受容されるのも宜なるかな。