以下、番附から。
銘作左小刀「京人形」
<配役>
左甚五郎 :尾上 松緑
京人形の精:中村 壱太郎
娘おみつ実は義照妹井筒姫:坂東 新悟
奴照平:坂東 亀寿
甚五郎女房おとく:市川 門之助
<みどころ>
名匠左甚五郎は廓で見初めた花魁が忘れられず、花魁に似せ、等身大の人形を心込めて彫り上げました。鑑賞しながら酒盛りを始めたところ、驚いたことにその人形が動き出します。そこで、試しに女の魂といわれる鏡を懐へ入れてみると、とたんに女性らしく動き踊り始めるのでした。
驚く名匠とコミカルな人形の動きも楽しい、長唄と常磐津の掛け合いでみせる舞踊劇。後半の立廻りまで見どころの多い作品です。
松緑を見直した。こういうコミカルな役というか、踊りでは本領発揮というところだろうか。藤間流勘右衛門派の家元でもある彼の踊りの確かさは以前から分かっていたけれど、あらためて、その手と身体の繊細かつしなやかな動きは家元のものだと認識させられた。見ほれてしまった。対する京人形の壱太郎の動きもよかったのだけど、松緑と組むとどこか中途半端さが見えてしまった。でもこれは酷というものですね。年齢的には十歳以上離れているんですもの。年齢を確認しようと検索をかけたら、松緑のブログが最初に出て来た。読んで、その芸術的センスの光る内容にまた感心した。東京が活動の中心なので、関西にかかるのがあまり多くないのが残念。でも壱太郎とのコンビ、その阿吽の呼吸がなかなかのもの。相性がいいのだと思う。この組み合わせて別の演目も観たいと思った。
そういえば、去年3月南座での、松也、巳之助と組んだ「素襖落」の太郎冠者がとても良かったのを思いだした。これもコミカルな役。一昨年3月新橋演舞場での『暗闇の丑松』では梅枝と組んでの丑松。これは悲劇だったけど、良かった。でもどちらかというと、彼のニンはコミカルな役により向いているように思う。自身を開放し、自在に演じれているような気がする。
音羽屋というとどうしても菊之助と比べてしまう。菊之助が女形で勝負しているので、棲み分けができているのだろうけど、これを入れ替え逆で演じているヴァージョンも観てみたい。松緑は父上が早世されているので、気の毒だとおもっていたけど、むしろ頭を押さえつけ、旧いやり方を押し付けてくる人がいなくて幸運なのかもしれない。それは松也にもいえる。この二人が音羽屋に新しい風を吹かせつつあるのかもしれない。
新しい風はこの「京人形」にも吹いているのが感じられた。亀寿も以前に感心した(『暗闇の丑松』の祐次)けれど、ここでもしっかりと揺ぎなくその個性を発揮していた。お兄さんの亀三郎ともどこ性格俳優の路線を築いている?松緑と組むことが多いようだけれど、これも一つの行き方だろう。