最近の南座の顔見世、上方の大御所を主とした演目が並んでいたので、敬遠してきた。坂田藤十郎や片岡秀太郎にかなり食傷気味になっていたので。若手が育っていない。それに比べると江戸(東京)歌舞伎は若手がどんどん育っていて、勢いがある。今回は、最近感心した勘九郎と七之助が出ているということで、かなり遅く、ぎりぎりになってからチケットを取った。席は最後列だった。
やっぱり勘九郎と七之助が良かった。今年の顔見世は去年までのと違い、チケットの売れ行きが良かったのでは。松竹さん、もう少し考えてくださいよ。坂田藤十郎はもう引退した方がいい。だれも鈴を付ける人がいないのが問題ですね。
勘九郎と七之助の二人が主役の舞踊劇、「爪王」がとにかく良かった。舞台装置は海老蔵の『はなさかじいさん』とか玉三郎の『春夏秋冬』と同じく、アブストラクト、というかきわめてモダン。一般的な歌舞伎の装置ではない。新しい創作舞踊?以下、配役。
爪王(つめおう)
狐 勘九郎
鷹 七之助
庄屋 国生
鷹匠 亀蔵
鷹の七之助は踊りのみならず、その襞のある表現に感服した。鷹の哀しみと優しさ、敵わないと知りつつも狐に挑む「勇気」の表現がすばらしかった。そして!それ以上にすばらしかったのが勘九郎の狐!まるでお父様の勘九郎(故十八世勘三郎)の源九郎狐が甦ったかのような錯覚がした。勘九郎はメキメキ上手くなっている。(多分)真面目な、それゆえにあまりオモシロ味のなさそうだった勘九郎ですよ。役者っていうのは、ここまで変貌できるんですね。それにただ、ただ感動していた。勘九郎と七之助の二人とも背がかなり高い。だから勘三郎と外見はあきらかに違う。それにもかかわらず、ときとしては父が乗り移ったかのようなサマになる。そこに父親の芸をしっかりと受け継いでいる、受け継ごうとしている二人の強烈な思いが伝わってきた。歌舞伎を、その役者を何代かにもわたって見つづけていることの「醍醐味」というか感興が、こういうところにあるのだと認識させられた瞬間でもあった。
それにしても、なぜ「爪王」なんでしょう?